貧乏神様、参る

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 貧乏神様(びんぼうがみさま)は、定期的に異世界へお引越しします。  栄枯盛衰(えいこせいすい)、破壊と再生――(かたよ)ったエネルギーを(なら)し、世界全体の調和を保つため、貧乏神様は世界そのものを貧乏(マイナス)にするのです。 「貧乏神様、そろそろお引越しの時期に入りました」  ある日、貧乏神様の部下が言いました。 「そうか」と、今住んでいる世界の行く末を見届けた貧乏神様は、疲れたように深々とため息をつきます。  貧乏(マイナス)が普通になってしまえば、その世界での役割は終了です。  ですが、貧乏神様にお休みはございません。再びバランスの狂いだした世界に身を(とう)じ、秩序を正すためのキッカケとなる不幸をばらまくのです。 「して候補地は?」 「数百年ぶりに地球はいかがでしょう。貧乏神様のごひいきにしている日本では、現在、純資産額は世界で一位、富裕層人口は世界で二位でございます。が、そのからくりは、国民の給料の六割以上を税金で徴収しているからであり、裏では、年間二万人以上の自殺者を出している模様(もよう)です」 「バカな、給料の六割を徴収? それでは半年タダ働きではないか。しかも、戦争をしているわけではないのに自殺者が二万とな! 小国(しょうこく)一つに匹敵(ひってき)する人口ぞ!? 政治家はなにをしておる! このまま放置すれば、()れの好物である味噌(みそ)すらも消滅の危険ではないかっ!?」  そうです、貧乏神様は味噌が大好物なのです。  特に焼き味噌に目がなく、うちわを(あお)いで焼き味噌の香りを堪能す(キメ)るレベルの上級者なのです。 「どうやら、日本の権力者たちには、お(きゅう)をすえんといけないようじゃな。引っ越しじゃ! 引っ越しの準備をするぞっ!」 「はっ!」  こうして大好物の味噌を守るために、貧乏神様は引っ越しの準備を始めたのでした。  滅びるか、そこから巻き返すのか。  (わざわ)(てん)じて福となすのかは、その世界に住んでいる人間しだい。 【了】c13035e9-94d7-4f8b-9a1a-14824572c30e
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