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「っ!」
目の前に人影が現れた。
どんな人かを見る余裕はなかった。
正面衝突とはならなかったものの、かなり強い衝撃が遥の半身を襲った。
体勢を崩し、後ろに倒れそうになる。
「邪魔なんだよ!」
この言葉が自分に投げかけられたものなんだと理解したのとほぼ同時に、遥の体は遥の意思とは関係なく動きを止めた。
後ろにいた人が受け止めてくれたようだ。
「大丈夫ですか?」
遥の肩と背中をそっと支えるようにしてこう言ったのは、遥と同年代に見える男の人だった。
遥はすぐに体勢を立て直し、その人に向き合って頭を下げる。
「それにしても、邪魔だとはまた、ずいぶんですね」
遥は自身の前方不注意を反省し始めていたのだが、そうではなかったらしい。
ぶつかってきた人が、右側通行を逆走してきたのだと、その男の人はやや怒ったような口調で教えてくれた。
「あの、ありがとうございました。おかげで助かりました」
この人に嫌な気持ちになってほしくないと思った遥は、今できる精いっぱいの笑顔でお礼の言葉を告げた。
すると、男の人は毒気を抜かれたように小さく息を吐き、にこりと笑って首を振ってみせた。
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