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「……それなら」
ほんの少し生まれた沈黙に、遥の声が響いた。
無意識のうちに声が出ていて、自分でも少し驚いてしまった。
「ん?」
このときちょうど赤信号で車が止まって、将司が遥に顔を向けた。
まったく同じタイミングで遥も首を回したから、暗がりでも目が合ったのがわかった。
「それなら、どうして今日、誘ってくれたの?」
この質問の答え次第で、遥が聞きたいことはなくなる可能性がある。
あとどれくらいで家に着くのかわからないけれど、なんとなくもうそんなに時間は残されてないと思った。
「……そう思うよね」
将司は再び前を向いて、ゆっくりと車を加速させた。
遥は将司の横顔をじっと見続ける。
「とにかく、あのまま終わらせたくないって、そう思ったのがひとつ」
なんとなく放っておけないという、弟が言うところの固有スキルが発動したのだろうか。
いや、これは将司の優しさゆえの行動だ。遥はそう思うことにした。
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