幸せのいろは

１６

「だけど、廣畑さんは僕が思っていたのとは違った反応を見せてくれた。おかげで今でも心の整理ができていないっていうか、はっきり言って戸惑ってる」
「え、どういうこと？　私、何かおかしなこと言っちゃった？」

　将司が困ったように笑うものだから、遥もすぐに反応してしまった。
　こんな状況でも、やはり将司にそんな顔をしてほしくないのである。

「僕がおかしいんだと思っていたことを、廣畑さんはあっさりと受け入れてくれた。ちょっとだけ期待してたところもあったけど、やっぱり嬉しかった」

　何を言っているんだろう。落ち着いてものを考えられない。
　この感覚はこれまでにも何度か経験している。

「ごめん。僕ももう、自分が何を言っているんだかよくわかんなくなってきたんだけど、最後にひとつ、いいかな」

　最後にひとつ。
　そんなことを言われては、冷静でいられるはずがない。
　遥はどう返事をしたらいいのかがわからず、声にならない声を出して、首を小さく傾げてみせた。

「はっきり言って、全然自信はない。やっぱりやめたほうがいいんじゃないかって、まだそう思うところもある」

　遥があいまいな返事をしたから、将司も言葉をつなぐことにしたのだろうか。
　まもなくやってくる最終ジャッジを前に、遥の鼓動は激しさを増した。