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「私で、いいの?」
涙声にならないように、絞り出すように問いかける。
これ以上は言葉数を増やせそうにない。
「こんなこと聞くの、ずるいと思うけど」
これだけ言って、将司は口を閉じた。
ずるいって誰が?と、遥が不安な気持ちを抱えたまま将司を見ていると、将司は不意に横を向いて、ふっと笑ってみせた。
「僕のこと、まだ好きでいてくれてる?」
ずるい。本当にずるい。
それを言わせることも、そんな笑顔をくれることも。
「……好きだよ。最初からずっと、最初よりも、ずっと」
思えば、はっきり「好き」と伝えたのは、これが初めてかもしれない。
ほとんど同じようなことは何度も言ってきたはずだけど、やっぱりこの言葉を伝えるときは緊張する。
「……ありがとう」
だけど、嬉しい答えが返ってくるとわかっているときのこのどきどきなら耐えられる。
何度経験しても、幸せな気持ちが湧き上がってくる。
「じゃあ」
「うん。これからも、よろしく」
今度はできれば、目を見て言ってほしかった。
そんなことを思うくらい、遥の心に余裕が生まれた。
街並みがなんだか見慣れたものになってきた気もする。
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