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混みあった車内ではなかなか会話もしづらい。遥が何も言えないでいたから、彼も何も言わなかった。
それをいいことに、遥は彼のことをよく見てみた。
歳は、遥と同じか少し上くらいだろうか。
だけど、平日のこの時間に軽装しているから、大学生に見えなくもない。男の人の年齢って全然読めない。
顔は誰が見てもイケメン、という感じではないけれど、賢そうだし優しそうでもある。
少なくとも、遥の好みの範囲内ではあった。
次の駅で電車が止まり、乗客が何人か入れ替わる。
その流れで遥たちも少し移動することになったのだが、彼が壁になってくれたのか、遥の体に誰かが触れることはなかった。
階段でぶつかられたときもそうだけど、今もこうして守ってくれている。そんなふうに思えた遥は、勇気を出して声をかけた。
聞き取れないくらいの小さな声だったと思うが、それでも十分な距離感だった。
「あの、私は次で降りるんですけど……」
「あ、僕も同じです」
大きな乗り換え駅だから、多くの人が降りるだろう。それでも、遥にとってはこの偶然ですら奇跡に思えた。
これはもういくしかないと、遥は意を決して次の言葉を投げかける。
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