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「その、もしよければ、少しお話しませんか? さっきのお礼ってことで、お茶代は出しますから」
さっき会ったばかりの人をこんなふうに誘うなんて、初めてだ。遥は言い終わるより前に顔を伏せて、たまらず目を閉じた。
電車のスピードが遅くなるのを感じる。
「え、今からですか?」
彼はそう言って、シャツの胸ポケットからスマホを取り出した。
時間の確認をしたのか、すぐにしまって、考えるように視線を上げる。
「お忙しいですか? ちょっとだけでいいんですけど」
即座に断られることも覚悟していたから、少しでも可能性を残すような口ぶりをする彼に、さらなる追撃をかける。
別に彼に対して一目惚れをしたわけではない。
助けてもらった恩はあるけれど、それだけでもない。
この出会いを無駄にしたくなかったのだ。
この先どんな未来が待っているかはわからないけれど、過去にない出会い方をしたこの人と、簡単に別れちゃダメだと思ったのである。
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