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午後六時の少し手前、あたりが暗くなってもそれほど寒さを感じなくなってきた四月のこと。
とある大学で事務仕事をしている廣畑遥は、一日の仕事を終えて家へと帰ろうとしていた。
今日は木曜日、テレビは何があったっけ。そんなことを思いながら、遥は定期券を使って駅構内へと入った。
ついさっき電車が来る音が聞こえたけれど、遥が乗る方向とは逆なのであせることはない。
ホームへとつながる階段を、遥はゆったりとしたペースで歩く。
普段ほとんど運動をしないから、駅ではエスカレーターを使わないようにしている。
この時間はこれから帰る人や帰ってきた人で混雑している。
顔を上げても知らない人の背中しか見えないから、なんとなくうつむきがちに歩く。
ひとつ目の階段を上りきったところにあるジュース屋さんを通り過ぎて、次の階段へ。
だいたいいつも同じコースを歩くけど、他の人もそうなのかな。
続くふたつ目の階段の一段目に足をかけて、顔を上げた。
そのときだった。
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