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「美しい男と酒が飲みたいのう」
ばあやは満面の笑みを見せ、美女の意図を汲みにかかる。
「左様でございますか。今すぐに我が軍の四天王をお呼び致します」
ばあやが指を鳴らすと、どこからともなく四天王が現れた。
「おい、ババア! 何の用だ!」
筋骨隆々とした体に重厚な鎧を纏い緑色の肌をした一つ目二本角の鬼がばあやを怒鳴りつけた。しかしばあやはそれに臆する事なく言い返す。
「これ、闘士キュクロプスや。お館様の御前であるぞ、控えい!」
「ケッ! 俺はこれから人間どもの城を攻める予定だったんだ! この予定は伝えていたはずだったろ」
ばあやはしわがれた声で軽い溜息を吐く。
「こんな月夜が明るい中、夜襲はバレバレだよ。正面から奇襲をかけるのと変わらん。今日はやめときな」
「ケッ! 俺たちはどんな状況でも力でどうにかしてきたんだよ!」
ばあやとキュクロプスのやり取りを、美女は白けた目で見ていた。頬杖をつきながら、あくびをするぐらいに呆れる。
「軍師、ウミノ。ここへ」
恰幅の良い軍師ウミノは立膝をつき跪き、ばあやに優しい口調で尋ねた。
「このような夜中に火急の用とのことですが、どのような要件で? まさか勇者がもうこの城に入りこんだとか」
「違う違う」
「なら何故に」
「実は、お館様が皆の者と一緒に酒を飲みたいとおいででの」
ウミノは唖然とした顔を見せた。そして顔を伏せて小さな声で呟く「下らんことで呼びおって」と。
「まぁまぁ、みんなで集まれることなんてそうそう無いんですから感謝しましょ? ね?」
道化師の格好をした糸目の優男が皆を嗜めにかかる。
「道化師ドビンドン、お前は話が分かるようだねぇ」
「ボクはキュプロクスちゃんとは相性悪いからねぇ、あいつと酒飲むぐらいならドラゴンの小便でもダイレクトに飲んだ方がマシだよ」
ドビンドンはおちゃらけた口調で述べた。だが、目つきは真剣であることから本音である。
「んだとゴルぁ! やる気か!」
キュクロプスは背中に背負っていた大斧を構えた。それを見るなりにドビンドンも両腕にナイフを構える。
「ボクはねキュクロプスちゃんみたいな一兵卒からの成り上がりが嫌いなんだよ」
ドビンドンはナイフを二本続けて投げると、キュクロプスはそれを大斧で弾き返した。
成人男性とほぼ同じ大きさの大斧を振り回し、空気を切る音が大広間に響く。
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