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「いい加減にせんかお前ら!」
ばあやが大きな声で叫ぶ。その叫び声を聞いた両名は直ちに武器を収めてしまう。
いつの間にか、四天王最後の一人の騎士団長ホットゴールドがドビンドンの肩の上に手を置いていた。
「やめとけやめとけ? 龍の小便なんて苦くて舌の上で弾けるだけでうまいもんじゃないぞ?」
飲んだことがあるのだろうか。ここにいる全員が疑問に思うのであった。
「これ以上争うと言うならこの騎士団長ホットゴールド、天界の門番より奪いし剣で貴様らを錆びにせざるを得ない」
ホットゴールドは腰につけていた剣の柄を握りながら述べた。少しでも変な事をすれば腰から剣を抜き切り捨てるつもりなのだろう。
それを分かってかドビンドンとキュプロクスは戦闘態勢を解き、先程から同じ体勢で跪いているウミノと一緒に跪く。それからすぐにホットゴールドも跪いた。
色々と問題はあったが、美女を囲む晩酌が始まった。美女はワインを呷るが、その顔は先程と同じく晴れない。
「お館様。ご要望どおりに美しい男どもをお呼びしましたが、まだ何か不満でらっしゃいますか」
美女はギロリとばあやを睨みつけた。ばあやはその眼光に恐怖を覚え腰を抜かしてしまう。
「もうよい、そちらは帰れ」
四天王はそれを聞いて不満そうな顔を見せた。いきなり呼んでおいて、ほんの数杯酒を飲んだだけで帰れとは何様なのだろうか。
しかし、彼らには美女が「何様」かが何か分かっており心の底から恐れつつ恐れている。
美女に軽い礼だけをして、転移魔法を使いすぅーっと消えて行った。
晩酌が終わると同時に美女はばあやに持っていたワイングラスからワインを頭から浴びせた。ばあやは文句一つも言わずにハンカチで顔を拭いていく。
「ばあや」
「何でしょうかお館様」
「何故にあのような変な男どもと酒を飲まねばならぬのだ」
「ですが、我が国の中でも選りすぐりの男どもでございます」
「何が選りすぐりだ! 他にいい男はおらぬのか! 妾はいい男と酒が飲みたいのだ!」
「ですが、あれ以上の男は我が国にはいないのでございます」
美女は上を見上げ、国にいる男の顔を思い浮かべた。筋骨隆々とした戦闘馬鹿の兵士の顔しか思いつかずに渋い顔になってしまう。
「この国の男のどれと酒を飲んでも旨い酒が飲めるとは思わぬわ!」
「我儘はいわんで下さい、我が国にはこれ以外の男がおりませぬ故にあきらめて下さいまし」
美女は持っていた杖を思い切り地面についた。トンっ! と、言った音が大広間に響き渡る。
「誰かこの大魔王を満足させるような酒を飲ませる男はおらぬのか!」
美女の正体は、この世界に脅威を与える大魔王。
大魔王は「いい男と美味しい酒が飲みたい」と、飢えて希求していたのである。
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