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第一章 ナンバーワンホストの死
俺は近衛道行(このえ みちゆき)。新宿歌舞伎町トップのホストクラブ異邦人のナンバーワン。つまり、新宿歌舞伎町ナンバーワンホストである。
俺がホストの道を志したのは、前に勤めていた会社を不当解雇され転職したからだ。
全くの畑違いの転職をしたのにも、理由がある。
不当解雇後の就職活動が上手くいかずに、新宿歌舞伎町でホームレス生活に陥っていたところを異邦人のホストに喧嘩を売られたのだが、返り討ちにしてやった。
その喧嘩っぷりを見た上役のホストがいたく俺を気に入り、その日のうちに風体を身綺麗にされ、社員寮に放り込まれて新人ホストにされてしまったのである。
俺の前職は営業職で人と話すことは嫌いではなく、接待で酒を浴びるように飲まされてきた。そう言った下地があったおかげか、ホストの仕事は楽しく天職と言えた。それでも、下積み時代は先輩のいじめに耐える毎日であった。
地獄のような下積み時代を乗り越えた後はホストとしての順位を上げていき、気がつけば店のナンバーワンになっていた。頂点を取るまでに、男としての自分をどれだけ売り捌いたのかはもうわからない。
男としての自分を売れば売る程、店の売上にも貢献出来たと考えれば本望と言うものだ。
歌舞伎町ナンバーワンホストともなれば、何かと注目されてしまう。異邦人の宣伝活動の為にテレビや雑誌のインタビューを何社か受けたのだが、俺は素直に自分のこれまでの半生を隠さずに答えている。
不当解雇からのホームレス、そしてホスト転職からのナンバーワン。まるで漫画のような下剋上成り上がりのサクセスシンデレラストーリーである。当事者の自分でも嘘としか思えない波乱万丈の人生だ。
そんな俺に異邦人のオーナー、剣王(けんおう)より打診があった。
剣王は俺をスカウトしたホストで、俺がナンバーワンになるまでの間に店長からオーナーへと昇進している。
「おう! 道行! 異邦人の2号店を渋谷にオープンすることにしたぞ!」
「マジっすか?」
「それでな、お前ももうじきホストとしては曲がり角な年齢だろ? 女も離れてくし、肝臓もヤベーしな」
正直なところ、俺はまだ二十五歳で「まだまだイケる」と考えていた。ただ、アラサーと呼ばれる年齢になれば離れる客はいる。肝臓も五年間酒浸りでどうなっているかがわからない。後未来を考える歳に来ているとも考えていた。
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