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プロローグ
月夜の晩、銀髪碧眼にゴシックロリータの振る舞いをした美女の声が豪華絢爛たる大広間に響き渡る。
「ばあやや」
「何でございましょうか」
美女の側に付いていた、ばあやの嗄れた声が答える。
「酒が飲みたい」
「仰せのままに」
ばあやは何やら意味のわからない呪文を唱えると、瞬く間に美女の前に純白のテーブルクロスが敷かれた大きなテーブルが現れた。
部屋の隅よりこれを確認したコック姿の二足歩行の豚がその上に次々と料理を運んでくる。料理と言っても、酒のつまみ程度の軽いものである。
「今日のつまみは何じゃ」
美女が尋ねた。コック姿の二足歩行の豚、いわゆるオークは答えた。
「はい、採れたての饕餮(とうてつ)のチーズでございます」
「そうであるか」
美女はコクリと頷くと、コックの豚はワインボトルをテーブルの上に乗せた。
「ばあや、今日の酒は」
「は、人間どもより奪いしビンテージワインにてございます。なんでも、50年前のワインだとか」
「であるか。我らからすれば瞬きにも満たぬ時のワインだのう」
「全くでございます」
美女はワインを一口、口に入れた。その瞬間に美女は渋い顔を浮かべてしまう。
「まずい」
「やはり人間ごときの飲み物では口に合わないようですな」
「違う。いつもいつもそちのようなオババと、このようなオークと顔を付き合わせて飲む酒は不味いと言う意味で言っておるのじゃ」
「はは、この豚が気に食わないとおっしゃいますか。やはり豚は料理を作るより料理にするに限りますな」
それを聞いていたオークの顔が綺麗な海の色のように青ざめる。
このオーク、昔からこの城で城主の為に料理を作っているベテランコックである。
これがこんな気まぐれで終わることに悔しさを覚えていた。
「このようなひねこびたオークを料理にしても、肉がボソボソとしていそうじゃ。この者にはこれからも妾の為に料理を作ってもらう」
オークは安堵し、二人に気付かれないように蹄でガッツポーズをとった。
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