プロローグ

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プロローグ

 青みがかった灰色の砂が岩場の周辺に広がっている。空気は痛いぐらいに冷えて澄んでいる。  満月が空に輝いていて、遠くの山々の奥には、ほんのりピンク色が覗き始めている早朝だった。半透明のカニが浜を走り抜け、弾けた泡の間でポコポコとカニの巣穴が水を吐き出す。外海につながった浜の波は強く、時に怖いぐらいに激しい音を立てて浜を砕いた。  岩場には崩れているところや、空洞になっているところもいくつかあった。  目印の薄紫の花がたくさんある洞窟の入り口を見つけた父が立ち止まる。  正寅が寒くてくしゃみをしたら、父が振り返って笑い、自分が纏っていたケープをかけてくれた。大きなサイズのそれは、父の好きな煙の匂いがする。  洞窟の中に少し入り、懐中電灯で辺りを照らした父が、正寅を興奮気味に呼んだ。 「マサ、見ろ。この辺りにこんなのがあるなんてな」  そうやって父が足元の石のかけらを手に取り、正寅によく見えるように近づけてくるところで、洞窟の奥が信じられないぐらいの強い光を放つ。  真っ白な世界に包まれ、正寅はそこで父を見失った。
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