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 山崩れや大雨、それから地震の後に沢を遡ると、珍しい石がゴロゴロ見つかることがある。しかし、たいてい、そういう場所は『立入禁止』になっていて、保安要員か持ち主ぐらいしか入れない。あるいは、その道の専門家として名が通り、研究目的で許可を得るかだ。  持ち主になるのは大変なので、正寅は最初は保安要員になった。災害派遣のメンバーとして選ばれるために訓練だって頑張ったし、講習だって受けまくった。  その傍らで珍しい石を拾ってはコレクションし、高校時代の恩師や友人と情報共有しているうちに、たまに世間に発表できる発見が出てきた。学術的な根拠は専門家に任せ、フィールドワークのサポートとして論文に名前を載せてもらうチャンスが何度かできた。学者ではない正寅にとっては光栄以外の何ものでもなかった。  何年かして、正寅は『特別な嗅覚を持つ天才』だと噂されるようになった。その地域で初めての発見や、新しい地層での発見など、ちょっとした界隈のニュースになるような発見が年に何度も続いたからだ。  初めは専門家にしか知られてなかったが、エンタメ系ニュース配信などからの取材が相次ぎ、研究資金にもなるし、救助隊の広告にもなるからと受けていたら、それなりに名が知られるようになった。  どうやって見つけるのか、という質問もよく受けた。  正寅はうまく答えられなかった。なんとなく、というのが一番ピッタリな答えだったからだ。確かに、面白いものを探そうという目は光らせている。だが、大発見をしてやろうと息巻いているわけではなかった。  そんな自然体が良かったのか、ネイチャー系の番組にも何度か呼ばれた。  岩石ハンターだった父を引き合いに出して、才能は遺伝するのでしょうかと聞く人もいたが、それは正寅自身が聞いてみたかった。自分が小石や鉱石にどうしようもなく惹かれるのは、遺伝なんだろうか?
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