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 2人が帰った後、正寅は静かになった山小屋で、書類を眺めた。一通り目を通した後は、A4封筒にまとめて戻し、それからため息をついた。  災害救助隊本部の部長というのは、ヒラ隊員の正寅にしてみれば、何階級も上の人物だった。班長なんてのは正寅より数年先に入隊して、じゃんけんに勝てばなれるぐらいの階級だが、部長は違う。しかも正寅がいた山岳方面専門でずっとやってきた人だ。チャンスがあったら経験談も聞いてみたい人ではある。それが向こうから声をかけてくれるなんて。確かに名誉だ。  正寅はもう一度、書類を広げた。広げては戻すのを、もう3回ぐらいはやっている。  どう考えても、断るにしても受けるにしても、一度部長の前に顔は出すべきだろう。  正寅はそれもまた気が重いなと思いながら、断る言い訳を探し始めていた。
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