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 そんな軽いノリで始まった温泉旅行計画。湊の中には、旅行先で可愛い女の子との出会いもあるかも、なんていう邪な考えがなかったといえば嘘になる。湊たちと同じように三人組で来ている女子大生もいるはずだ。  車内を見渡してみても、それらしいグループは今のところいないようだった。ほとんどがおじさんや、おばさん連中ばかり。  まあまあまあ、と気分を変えて外を見る。今日はあくまでメインは温泉。可愛い女の子との出会いはおまけみたいなものだ、と自分に言い聞かせた。  湊に彼女はいない。大学生になればあっという間に恋人ができるものだと思っていたのに、どういうわけか自分はいつも一人だ。正確には、裕大がいる。彼も湊と同じように独り身であり、童貞だった。  俺はお前とは違うからな、そう言っていつもマウントを取るのは湊の方である。  湊は高校生のとき、一度だけ彼女がいた。同じクラスの女子。優しくされて好きになってしまった。いつも彼女のことを考え、いつも彼女のことを優先した。  優しい男はモテる、そう雑誌に書いてあった気がしたから。  しかし、三ヶ月という短い期間を経て、彼は振られることになる。 「湊くんて、なんでいつも私のこと優先してくれるの? なんかさ、自分がないっていうか、もっと引っ張ってってほしかった」  そう冷たく言われて、あっけなく恋は終わった。結論。優しい男はモテない。強い男がモテる、そういうことか。  それから彼は、女子と接する際に強引さを出そうともがいている。そんな機会すら訪れないのが現状だが。  バスは国道を走る。後部座席では哲治が椅子の隙間からずっと話しかけてきていた。落ち着きのないやつだ、と湊は思う。子どもみたいにはしゃぎ、恥ずかしげもなく感情を表に出す男。どうしてこんなやつにあんな可愛い彼女がいるのか。 「哲治さ、彼女はなんか言わなかった? 私も行きたいとかって」 「あー、言ってた。でもまあ、友だちとの時間も大事だしって言って説得したんだよ。あいつ素直だからすぐ納得してさ」 「ふーん」  湊は裕大と顔を合わせた。王者のような余裕ぶりになぜか腹が立った。 「絶対に生きて帰ってきてね、って言われてさ。なんじゃそりゃ、って返したけどさ。大げさなんだってあいつは。ただの旅行じゃんって言ったけどさ、寂しいからってちょっと泣いてたんだけど」 「おのろけかよ、あーもうそんなの聞きたくない。やめだやめだ、こんな会話」  裕大の顔は駄々をこねる赤ん坊のようだった。本気で嫌がっている。それが妙にツボに入ってしまい、湊は腹を抱えて笑った。え、なんで笑ってんの? と隣りいる友人も後ろにいる友人も不思議な声を出していた。
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