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 それから一時間ほどが経過しただろうか、景色は緑に包まれていく。バスは確実に都会からは離れていった。  国道を降りると、ポツポツと家が並ぶ田舎道に変わる。田んぼがあり、見たこともないようなスーパーがある。畑仕事をしているおじいちゃんが腰をかがめて作業をしている姿や、野菜を手に持ちながら道端で話し合うおばさんたちが見えて、なんだかほっこりとした気分になった。  それから更にバスは奥へ奥へと向かっていく。鉄橋を通り、トンネルを抜けると次第に山道へと変化した。もう住宅の気配すらない。周りは森一色で、うねうねとした道路はジェットコースターのように何度も右に左に曲がっていた。  湊はスマホを手に持ちながら、外の風景を見ている。ズボンのポケットになにかを入れるのが嫌いだった彼は、財布も家の鍵もリュックに入れてある。  恐らく、隣りに座っている裕大も後ろの席に座る哲治も、スマホを手に持ってはいたはずだ。窓の外に映る滝が見えたから。それのなにが珍しかったのかはわからない。  三人は窓の外にカメラを向けていた。  スマホに映し出された時刻は、午前十一時四十五分。その時刻だけは忘れることはない。  前日に雨が降っていた、運転手の技術の過信、なにか身体的な異変が起こった、様々な要因が重なった結果だったのかもしれない。これが最大の原因だとはまだ答えが出てはいないはずだ。だが、確実に言えることは、事故は間違いなく起きたということだ。  それは唐突に訪れた。曲がり道をバスが右に曲がったところまでは理解していた。その後のことは想像でしかない。  速度を落としきれず、曲がりきることができなかったバスは、ガードレールを超えて崖から転落したのだろう。  ドン! という大きな音と共に、窓に体がぶつかり、その後宙に浮いた。叫声が聞こえ、スマホが手から放れた。上も下もない無重力の世界。一瞬だけ、座席を上から見下ろす形になったことだけは覚えている。その後のことはもうなにも。  次に目を開けたとき、視界に入ってきたのは髪の毛を耳にかける美しい女性の顔と、胸の谷間だった。
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