7人が本棚に入れています
本棚に追加
「背中向いてください」
少し猫背の背中を見せる。女の子にジロジロと体を見られるのは緊張した。
「あ、ここ」
そう言って彼女は後ろの腰辺りを指で押さえてきた。ピリッとくる痛み。
「いたっ」
「ごめんなさい。ここ、青あざになってるから。あ、こっちも。ここ痛いですよね?」
そう言いながら左側の脇辺りも指で押さえてくる。
「いたいいたい」
「ごめんなさい」
謝るなら押すなよ、と口から出そうになるのを堪えて振り返ると、なぜか楽しそうに指を伸ばしていた詩がいた。
「いや、だから痛いって」
「あ、ごめんなさい」
「楽しんでない? 人のリアクション見て」
「え? あ、いや、そんなことないです。湿布を貼りましょう」
冷たい湿布を青あざに貼ってくれた。すぐに服を着る。
「ありがとう」とお礼を言うと、「どういたしまして」と笑顔で返された。その表情に少しだけ心臓が弾んだのは気のせいだろうか。
「温かい飲み物用意しますね。コーヒーでいいですか?」
「あ、はい。ありがとう」
救急箱を持って立ち上がった彼女は、キッチンへと向かった。ダイニングテーブルには相変わらず腕にコードを挿し込んだ母親がいる。
湊は我慢できなくなり、ソファから立ち上がって母親の元へと行った。
「どうしました? もしかしてお手洗いかしら? トイレなら廊下を左に曲がったところにありますわよ」
「いや、そうじゃないんですけど。えっと、これは?」
彼は恐る恐る指を差しながらそう尋ねた。間近で見るとますますおかしな光景だ。
「これ? これは充電ですよ? アイデン。え、どういうことですか? なにかおかしい?」
湊の方が非常識だと言わんばかりの反応。
「すいません、僕は全く知らなくて。その、アイデン? アイデンってなんですか?」
「アイデンを知らない? え、そんなことあるの?」
母親はキッチンにいる詩の方を見ながらそう口に出す。コーヒーを準備していた彼女も、手を動かすのをやめてこちらへやって来た。
「ねぇ詩、湊さんがアイデンを知らないって言っているのだけど」
「え、知らない? そんなことってある?」
「すいません。僕は、知らないです。初めて見ました。これがなんなのか、わからない」
最初のコメントを投稿しよう!