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「背中向いてください」  少し猫背の背中を見せる。女の子にジロジロと体を見られるのは緊張した。 「あ、ここ」  そう言って彼女は後ろの腰辺りを指で押さえてきた。ピリッとくる痛み。 「いたっ」 「ごめんなさい。ここ、青あざになってるから。あ、こっちも。ここ痛いですよね?」  そう言いながら左側の脇辺りも指で押さえてくる。 「いたいいたい」 「ごめんなさい」  謝るなら押すなよ、と口から出そうになるのを堪えて振り返ると、なぜか楽しそうに指を伸ばしていた詩がいた。 「いや、だから痛いって」 「あ、ごめんなさい」 「楽しんでない? 人のリアクション見て」 「え? あ、いや、そんなことないです。湿布を貼りましょう」  冷たい湿布を青あざに貼ってくれた。すぐに服を着る。 「ありがとう」とお礼を言うと、「どういたしまして」と笑顔で返された。その表情に少しだけ心臓が弾んだのは気のせいだろうか。 「温かい飲み物用意しますね。コーヒーでいいですか?」 「あ、はい。ありがとう」  救急箱を持って立ち上がった彼女は、キッチンへと向かった。ダイニングテーブルには相変わらず腕にコードを挿し込んだ母親がいる。  湊は我慢できなくなり、ソファから立ち上がって母親の元へと行った。 「どうしました? もしかしてお手洗いかしら? トイレなら廊下を左に曲がったところにありますわよ」 「いや、そうじゃないんですけど。えっと、これは?」  彼は恐る恐る指を差しながらそう尋ねた。間近で見るとますますおかしな光景だ。 「これ? これは充電ですよ? アイデン。え、どういうことですか? なにかおかしい?」  湊の方が非常識だと言わんばかりの反応。 「すいません、僕は全く知らなくて。その、アイデン? アイデンってなんですか?」 「アイデンを知らない? え、そんなことあるの?」  母親はキッチンにいる詩の方を見ながらそう口に出す。コーヒーを準備していた彼女も、手を動かすのをやめてこちらへやって来た。 「ねぇ詩、湊さんがアイデンを知らないって言っているのだけど」 「え、知らない? そんなことってある?」 「すいません。僕は、知らないです。初めて見ました。これがなんなのか、わからない」
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