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 驚いた顔を見合わす親子。それほど衝撃的なことだったらしい。アイデンとは一体なんなのか。 「これは『アイデン』と言って、愛情が電気に変換されて送られる装置です。愛の電気と書いて『愛電』。え、本当に知らない?」  詩の言葉に開いた口が塞がらなかった。 「人間は愛情を持ち合わせていないので、国が送電してくれているんです。体のどこかにソケットが必ずあるので、そこに挿し込んで愛を受け取る、ってこれは学校で習うことですけど」  聞いたこともない世界観に現実を見失ってしまう。まるでSFの世界だ。  湊は腕にコードが挿さっている母親の腕をもう一度じっくりと見た。白いコードはそのまま緩やかなカーブを描いてダイニングテーブルの近くにあった壁へと続いている。壁には穴が空いていて、その先がどこに繋がっているのかはわからなかった。 「じっくり見てもいいですか?」 「ええ、どうぞ」 「抜いてみても?」 「構いませんよ」  母親の言葉に彼は割れ物を触るように慎重にコードの先端に力を込めた。コンセントから充電器を抜き取るように、ゆっくり引っ張ってみる。コードは音もなく容易に外れた。白いコードの先端部はそれこそスマホの充電器みたいに金属の部分が付いている。それが人の体にあるソケットへと挿し込まれるわけだ。  それをもう一度彼女の腕に挿し込んでみる。 「い、痛くはないんですか?」 「全然」  後ろから見ていた詩は、「本当に知らないんですね」と言って驚いた声を出した。 「湊さんには、もしかしてソケットは付いてないの?」 「付いてないです。いや、逆に付いてる方が信じられない。僕はそんな人初めて見たので」 「私たちからすれば、付いてない方が変なんですけど」 「詩さんにもソケットがあるんですか?」 「もちろん。ほら」  そう話した彼女は(みなと)に背を向けて椅子に座ると、上着のボタンをいくつか外し、右の肩を出して首を左に曲げた。白いうなじは妙に色気があり、そして純白のブラジャーの肩ひもも見えてしまい、心臓がトクンと音を立てた。
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