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これは荒唐無稽なお話かもしれませんが、昏睡状態のとき、夢を見たのです。それは不思議な夢でした。現実とはかけ離れた世界にいる自分。他の人間は皆、愛情を電気で送られるという不思議な世界に迷い込みながらも、私は一人の女性の手助けがあってなんとか乗り越えられたのです。
夢の中で、その女性は私にこう言いました。
『人は皆、誰もが違う。誰しもが特別な存在。それぞれが自分にしかないものを持っている。それを忘れちゃいけない』
彼女の言葉は夢から覚めた今も、まるで自分が言った言葉のように覚えています。その言葉が私の支えになっていました。
一年のリハビリ生活は本当に大変でしたが、以前よりも強い人間になれたと確信しています。もう私は負けません。自分にしかない強い心を持っているから。それが私にとっての長所です」
面接を終えて、湊は会社を出た。日差しが強く、室内にいた冷房が効いた部屋とは打って変わっての暑さだった。
すぐにジャケットを脱ぎ、腕にかける。汗がじんわりと背中に滲み、思わず「あっつ」と声が出てしまう。
駅へと歩き始めたとき、「すいません」と声が聞こえた。
振り返ると、一人のリクルートスーツを着た女性。先程、湊の隣りにいた四番の女性だろうか。
「はい?」
「あ、あの、すいません。先程の面接で、とても素晴らしい内容をお話されていましたので、つい声をかけてしまって。すいません」
「ああ、いやいや、そんな大した内容でもなかったですけど」
「ニュースにもなっていたあの事故のことですよね。本当にお辛い経験をされていて、私はお話を聞いていただけなのに、涙が出そうになって」
彼女はポケットからハンカチを取り出して目元へ当てた。就活の面接で、他の学生の話を聞いて泣く人がいるのか、と少し笑いそうになってしまった。
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