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「確か、場所は下呂の辺りだった気がします。岐阜県の下呂温泉。そこへバスに乗って向かってて」 「ゲロオンセン? ギフケン? どこだろう、そんなとこあったかな。お母さん知ってる?」 「ううん、知らないわね。温泉地ならホウセンカが有名だけど」 「ホウセンカ? え、どこですかそれは? ちょっと待って。そもそも、ここってどこなんですか?」 「ここ? ここはダリア。あなたはどこから来たのですか?」 「ダリア? えっと、どこだ? 僕は、愛知県の名古屋市から来たんです。三人とも同じ大学に通ってて、それで、ゴールデンウィーク明けの休みを利用して、温泉街へ行きたいって話になって。えっと、ちょっと待ってください。混乱してて、ダリアっていうのは、花の名前みたいな、どこだろう? 何県?」 「ダリアは地名の名前ですよ。カタカナでダリア。ケンっていうのはなんですか? よくわからないけど」  明らかに話が噛み合わない。同じ日本だと思っていたのに、ここは全く別の世界のようだった。別の世界……。つまり、異世界ということ?  それに気がついたとき、湊はどうして自分が倒れていたのかがわかった気がした。  事故に遭った、そして、命を失った、そういうことなのかもしれない。  死んだと思っていたはずの自分の魂は、別の世界へと飛ばされた。想像もできなかった異世界へと。 「──僕は、たぶん、別の世界から来たんだと思う。まだ整理できてないけど、順を追って説明をしてもいいですか? 自分になにが起きたのか」  顔を見合わせる親子。詩はなにも言わず、コクリと頷いた。 「──僕は、二十歳の大学二年生。三人で、下呂へ温泉旅行に向かっていたんです」
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