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 二列ある席の窓際に湊、その隣りに裕大。一つ後ろの席に哲治が一人で座っている。 「えー、俺一人かよ」 「当たり前だろ、遅れてきて文句言うな」  裕大の口調はいつもよりも厳し目だ。 「お前さ、なんで遅刻したの? 電話も出ないしさ、昨日だって遅れるなよって散々言ってただろ? 他のお客さんに迷惑かけんなって」 「いやさ、違うんだよ。聞いてくれ。昨日さ、彼女と揉めちゃって。俺明日早いから寝かせてくれって言ったのにさ、なんか一緒にゲームしたいとか言ってきたりさ、動画がどうのこうのとかさ、いや寝かせろって言ってんのに結局眠りについたのなんて二時とか三時とかだぜ? それで寝坊しちゃってさ」  知らねーわ、と心の底から思った。どうしてこんなだらしのない男に彼女がいて(しかも可愛い)、自分には恋人がいないのか。世の中の摂理はどうなっているのか。哲治から彼女の話を聞かされる度に思う。 「まあでもさ、間に合ったんだし、よかったじゃん?」  悪気のない哲治の言葉に、「お前が言うな!」と湊と裕大の声が揃った。  バスは名古屋を出発し、岐阜県へと向かって走り出す。運転手の説明では、二時間ほどを予定していると話していた。  季節は五月。ゴールデンウィークも終わり、人の数も少なくなったタイミング。日中は夏のように暑く、夜になればまだまだ肌寒いこの時期。三人は温泉旅行を計画していた。率先して準備を進めたのは湊。  何事も事前の計画が大事だと理解している性格のためか、春休みが始まったころからアルバイトを多くしてお金を貯めていた。  若い大学生が温泉旅行なんて、それも男三人。他の友人に話すと馬鹿にされそうだったのであまり話題にはしていないが、お風呂好き、温泉好きだという点で三人の考えは一致していた。 「冬にお金を貯めてさ、五月ぐらいに行きてーな」  それは裕大の言葉だった。ファストフード店でポテトを食べながらそんな希望を語る。 「いいじゃん! 俺も温泉行きてー」 「じゃあさ、みんなでお金貯めて、下呂温泉とか行くか?」 「計画は湊に任せるわ」 「だな」 「おい! めんどくせーだけだろそれ」  
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