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00 プロローグ
つかれた。
遠見玲の頭の中は、もうそれしか考えられなくなっていた。
つかれた。早く寝たい。飯も風呂もいい、とにかく早く寝たい。しかし仕事がそれを許さない。
「まだ新入生のテストの丸付けも終わってないし、来年度からの指導要領も教育委員会のチェックが厳しい。……ああ、剣道部の合宿スケジュールも、保護者向けに早く出さないと……」
習慣化した仕事に、脳は自動で家に帰ってからのタスクを確認していく。
働き盛りといわれる二七歳。それでももう玲の体は限界に近かった。
田舎の中学校教師。一年生の担任のほか、専門分野である音楽、人員不足から社会科と情報の教科担任、そして何故か門外漢の剣道部の顧問までやらされる始末。
仕事量は明らかにオーバーしていた。
朝は七時前には登校、その日一日の授業の準備、割り振られた職員室の雑務、朝の挨拶運動。放課後になれば職員会議と剣道部の顧問。それが終わっても、次の日の授業に向けて最低限の準備をしていれば、帰路に着けるのは早くても二一時頃。学校行事が近いときには日付をまたぐこともあった。学校の戸締りも、もはや玲の仕事となっていた。
終電なんてものがあれば、それを理由に帰ることもできたのだろう。だがこの田舎にそんなものはなく、今日も玲は車で片道一〇分という、微妙に遠い場所に作られた教員住宅へと車を走らせていた。
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