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前任の先生も、ほかの同僚もやっているからと、受け渡された教師のバトン。そんなもの投げ捨ててしまえばいいと思う反面、生来の真面目さがそれを許さない。幸か不幸か、なまじ器用だった分、それだけの仕事をこの数年間、何とか捌けていた。
だが、この日はそれが不幸に傾いた。
「っ⁉」
ガイィイン! と響く何かの衝突音に玲は意識を取り戻す。
居眠り運転だ。
急カーブの多い山の下り道。意識もなく加速していく軽自動車はガードレールに衝突し、それでも勢いは収まらずに中空へとその身を踊りだした。
一瞬の浮遊感の後、腰から背中までを一瞬にして悪寒が駆け巡る。
ああ、落ちているのか。
そう認識するのに、多くの時間がかかったような気がする。実際には一瞬にも満たない時間が、永遠にも感じられる。
その永遠の時間の中、玲がずっと考えていたのは、
――明日の授業、どうしようかな。
ただ、それだけだった。
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