02 合同授業

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02 合同授業

「せっかくの合同授業だというのに、これでは手本にすらならない。だれか、レイ先生に治癒の魔法を」  生徒に治療される教師、そんな屈辱的な場面を演出しようと、アドルフはわざとらしく生徒たちに呼びかける。が、当然アドルフのクラスにはレイに治療を施してくれるような生徒はいない。 「は、はい……」  そんな中で手を挙げたのが、レイのクラス――つまりは平民のシャノン・ティスデイルだった。肩口まで伸びる亜麻色の髪をなびかせて駆け寄ってくるシャノンを、アドルフは演技がかった拍手で称賛する。 「おお、シャノン君ですね。もう治癒魔法が使えるとは、さすが、期待の新入生と言われていただけのことはあります。平民にしては、達者な魔法だ」  シャノンはレイの胸元に両手を当て「lux il sanare(治癒の光よ)」と治癒の魔法を唱える。が、嫌味な言葉と衆目のもと、その手に宿る薄緑色の光は安定しない。 「ありがとう、もう充分だよ」  シャノンの手を半ば強制的に押しのけて、治癒を中断する。緊張のせいか、その手はひどく冷たくこわばっていた。 「え、でも……」 「おや、もういいのですかな? それほど回復したようには見えませんでしたが」  アドルフの言葉と連動するように、貴族クラスからは含み笑いが聞こえてくる。  多少のめまいは残っていたが、これ以上自分の生徒に恥をかかせるわけにはいかない。なるべく早くシャノンをクラスのみんなのもとへ返したかった。 「でも、先生、今アドルフ先生に反抗すれば、今まで先生のしてきたことが……」  シャノンは周囲に聞こえないよう、小声でそうささやく。 「……何のことかわからないな、ほらシャノン。みんなのところへお行き」  シャノンの言う通り、レイにはやるべきことがあった。けれど、そんなもの頭の片隅まで追いやってしまうほどに、今のレイはある感情に支配されていたのだ。  アドルフのやり方は、趣味が悪い。
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