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「いえ、本当にもう充分ですよ。倒れていた僕が言うのもなんですが、たかが初級魔法ですので」
「っ……、では、授業を再開いたしましょう。どこかの半端者のせいで余計な時間を食ってしまいました」
煽ってくる人間ほど、煽られることには慣れていない。レイの言葉にアドルフは一瞬だけ額に青筋を浮かべ、すぐに平静を取り繕い、剣を構えた。
治療が充分なのは半分嘘で、もう半分は本当だった。視界はふらつくし体中痛いが、時間が取れたおかげでだいぶ頭の中で整理がついた。
遠見玲は死んだ。
それは純然たる事実だろう。だがどこか遠い別の世界で、レイ・ホークアイとして新たに生を受けた。今のレイを混乱させている記憶は、前世の遠見玲のものだ。そう断言できるのは、今のレイにレイ・ホークアイとして生きてきた記憶と、何よりその実感があるからだ。
この国、テラリアで貴族の末席に連なるホークアイ家に生を受け、実力不足に悩みながらも二七年間生きてきた実感。いろいろと考えたいことはあるが、今はそれだけわかっていればいい。
今考えるべきは、この男アドルフが、レイの生徒を馬鹿にしたということだ。
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