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【十品目】シア&クーチェ「タマゴカケゴハン」
クレッドが店を出た後、ホルツは暖簾を下ろした。
店を開くには、食材が足りない。それ故、暖簾を掛けることは出来なかった。
「ねえ、ホルツ。貴方って、どうやって食材を集めているの?」
ふと、シアは疑問に感じたことを口にしてみた。
ホルツは、異世界の食材を扱っているのだ。何処でどのようにして手に入れているのか、気になるのは当然と言えよう。
「企業秘密と言っただろ」
「わたしと貴方の仲でしょう」
「いつからそんな仲になったんだよ」
「そんなの昔からに決まっているじゃないの」
「シア様、そろそろ帰りましょうよ」
二人の会話にクーチェが割り込み、シアはあからさまに駄々を捏ね始める。
ホルツの秘密を知るまでは、離れるつもりが無いと言わんばかりの態度である。
「クーチェ、貴方は気にならないのかしら?」
「そうですねえ、……まあ、私も気になりますよ」
「ほら、でしょう? ということでホルツ、教えてちょうだい?」
「何がということでなんだよ」
口を割らないホルツ。
その様子に、シアは唇を尖らせて抗議する。
「教えないのなら、何か食べさせなさい。それで妥協してあげるわ」
「……シア、お前本当は何か食べたかっただけじゃないのか」
「うーん、そう言われてみれば、そうとも言うわね。クーチェも食べるでしょう?」
「仕方ないですね、お供します」
「お供するなよな、ったく」
仕方ない、とホルツは息を吐く。
冷蔵庫を開けて、ほぼ空っぽの中から卵を二つ取り出した。
「タマゴカケゴハンで手を打て」
と言ってはみたものの、シアとクーチェは恐らく、食べたことが無い。
実に簡単、お手軽で料理と言えるか否か不明だが、ホルツは二人の為にタマゴカケゴハンを作ることにした。
先ずはボウルにタマゴを二つ、割って入れる。
菜箸で溶き、よく混ぜていく。
「それ、タマゴよね? もう覚えたわ」
「そりゃよかった」
御椀を二つ、それぞれにゴハンを注ぐ。
ゴハンの真ん中を少し開けて、そこに溶かしたタマゴを入れて、ショウユを加えた。
後は掻き混ぜてしまえば出来上がりだ。
「タマゴカケゴハン専用のショウユもあるが、普通のショウユでも美味いことに変わりは無いからな。食べてみろ」
「え、……なにこれ?」
「タマゴカケゴハンだ」
見た目が気になるのだろう。
シアとクーチェは、互いに目を合わせ、小首を傾げている。
「味は保証する。いいから食べろ」
「ホルツがそう言うのなら、……いただくわ」
「シア様が食べるみたいですし、私も食べますよ」
渋々と言った表情で、二人はスプーンを掴む。
そして、タマゴカケゴハンを一口。
「……え、なにこれ?」
先ほどと、同じ台詞。
だが、シアの目の色は明らかに変わっていた。
「何度も言うが、タマゴカケゴハンだ」
「へえー、凄いのね。まさかゴハンとタマゴだけで、更に美味しい物が作れるとは思わなかったわ」
「ついでに、ショウユも必要だけどな」
タマゴカケゴハンの味に舌を蕩けさせたのだろう。
シアは頬を緩めていた。
一方のクーチェはというと、
「ふぅ、ごちそうさまです。ところでおかわりはありますかね?」
二杯目を所望していた。
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