【十品目】シア&クーチェ「タマゴカケゴハン」

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

【十品目】シア&クーチェ「タマゴカケゴハン」

 クレッドが店を出た後、ホルツは暖簾を下ろした。  店を開くには、食材が足りない。それ故、暖簾を掛けることは出来なかった。 「ねえ、ホルツ。貴方って、どうやって食材を集めているの?」  ふと、シアは疑問に感じたことを口にしてみた。  ホルツは、異世界の食材を扱っているのだ。何処でどのようにして手に入れているのか、気になるのは当然と言えよう。 「企業秘密と言っただろ」 「わたしと貴方の仲でしょう」 「いつからそんな仲になったんだよ」 「そんなの昔からに決まっているじゃないの」 「シア様、そろそろ帰りましょうよ」  二人の会話にクーチェが割り込み、シアはあからさまに駄々を捏ね始める。  ホルツの秘密を知るまでは、離れるつもりが無いと言わんばかりの態度である。 「クーチェ、貴方は気にならないのかしら?」 「そうですねえ、……まあ、私も気になりますよ」 「ほら、でしょう? ということでホルツ、教えてちょうだい?」 「何がということでなんだよ」  口を割らないホルツ。  その様子に、シアは唇を尖らせて抗議する。 「教えないのなら、何か食べさせなさい。それで妥協してあげるわ」 「……シア、お前本当は何か食べたかっただけじゃないのか」 「うーん、そう言われてみれば、そうとも言うわね。クーチェも食べるでしょう?」 「仕方ないですね、お供します」 「お供するなよな、ったく」  仕方ない、とホルツは息を吐く。  冷蔵庫を開けて、ほぼ空っぽの中から卵を二つ取り出した。 「タマゴカケゴハンで手を打て」  と言ってはみたものの、シアとクーチェは恐らく、食べたことが無い。  実に簡単、お手軽で料理と言えるか否か不明だが、ホルツは二人の為にタマゴカケゴハンを作ることにした。  先ずはボウルにタマゴを二つ、割って入れる。  菜箸で溶き、よく混ぜていく。 「それ、タマゴよね? もう覚えたわ」 「そりゃよかった」  御椀を二つ、それぞれにゴハンを注ぐ。  ゴハンの真ん中を少し開けて、そこに溶かしたタマゴを入れて、ショウユを加えた。  後は掻き混ぜてしまえば出来上がりだ。 「タマゴカケゴハン専用のショウユもあるが、普通のショウユでも美味いことに変わりは無いからな。食べてみろ」 「え、……なにこれ?」 「タマゴカケゴハンだ」  見た目が気になるのだろう。  シアとクーチェは、互いに目を合わせ、小首を傾げている。 「味は保証する。いいから食べろ」 「ホルツがそう言うのなら、……いただくわ」 「シア様が食べるみたいですし、私も食べますよ」  渋々と言った表情で、二人はスプーンを掴む。  そして、タマゴカケゴハンを一口。 「……え、なにこれ?」  先ほどと、同じ台詞。  だが、シアの目の色は明らかに変わっていた。 「何度も言うが、タマゴカケゴハンだ」 「へえー、凄いのね。まさかゴハンとタマゴだけで、更に美味しい物が作れるとは思わなかったわ」 「ついでに、ショウユも必要だけどな」  タマゴカケゴハンの味に舌を蕩けさせたのだろう。  シアは頬を緩めていた。  一方のクーチェはというと、 「ふぅ、ごちそうさまです。ところでおかわりはありますかね?」  二杯目を所望していた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!