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【四品目】レニィ「アボガドジュース」その②
引き出しからホルツが手に取ったのは、ミキサーだ。
ジュースを作る為に必要な道具である。スクイーザーで作ることもあるが、今回はミキサーがあるので、そちらを使用することにした。
「材料はヤサイにするか」
と言って、ホルツが手に取ったもの。
それはアボガドだ。
包丁を掴み、アボガドの皮をむき、一口大に切り、種や芯を取り除いていく。
三分の一程度をミキサーの中に投入し、大匙で五回分、アロエを加える。
「……おい、生きてるか?」
途中、カウンター席に座るレニィに声を掛けてみるが、返事が無い。
シアと目を合わせ、ホルツは肩を竦めた。
プレーンヨーグルトを取り出し、八十グラムをミキサーの中に入れる。
材料は、これだけでいい。
すぐに、そして簡単に作れる。それが強みの一つだ。
「よし、スイッチを入れるぞ」
ミキサーのスイッチをオンにする。
ガガガガガッ、とミキサーの内部が回り始め、アボガドが粉々になっていく。
一旦、スイッチをオフにする。
そしてまた、オンに入れ直し、出来具合を確認していく。
「こんなもんかな」
手頃なところで蓋を開け、ミキサーの中身をコップへと注いでみた。
それをシアが手に取る。
「毒味役が必要よね」
ホルツが言い返す前に、シアはコップに口をつける。
そして、ごくごくと一気に飲み干してしまった。
「……ぷふうっ」
満足気な表情で、口元を拭う。
シアの顔を見れば一目瞭然だが、味は問題ない。
「ほら、起きれるか?」
別のコップを置いて、注いでいく。
薄緑に染まる液体は、見た目も悪くなく、良いにおいがしていた。
「う、……ッ」
レニィは、顔を上げる。
目の前に置かれたコップに、瞬きを繰り返した。
「さあ、飲んでみなさい。味はわたしが保障するわ」
「毒味したからな」
二人のやり取りに、レニィは眉を潜める。
この人達は誰なのだろうか、と疑問が頭に浮かび上がっていた。
だが、それよりも何よりも、レニィはコップの中に入った飲み物が気になっていた。
「……これ、飲んでいいの?」
「勿論よ」
レニィの問いに、シアが胸を張って答えた。
次いで、ホルツがゆっくりと頷く。
「アボガドジュースだ。口に合うといいが」
レニィは、両手でコップを掴み、口元へと近づける。
「……ぁ」
甘い。
凄く甘い。
さっぱりとした口当たりに、けれどもアボガドの味が舌を刺激し、レニィの疲労を吹き飛ばしていく。
こんなに美味しい飲み物は、一度も飲んだことが無かった。
「お、おいしい……」
アボガドジュースで、肌のツヤを良くし、保湿力を高める効果が期待できる。
シアにとっても、これは実に魅力的なジュースである。
「ねえ、ホルツ? わたしね、おかわりが欲しいの」
「無い。さっきお前が飲んだからな」
「えっ!?」
「いやいや、なんで驚いた顔してるんだよ? むしろこっちが驚いたぞ」
「それじゃあ、次のを早く作りましょう? 期待して待っているわ」
そう言って、シアは握りこぶしを作ってみせた。
アボガドジュースで目を覚まし、ホルツとシアのやり取りを見るレニィは、自分が何故此処にいるのか不思議でならなかった。
ただ一つ、分かっていることがある。
それは、空になったコップが物語っていた。
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