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【五品目】レニィ「アボガドジュース」その③
アボガドは、まだ余っている。
ホルツは、先ほど作った物とは別のジュース作りに取り掛かっていた。
「アロエの次は、バナナだな」
栄養満点の美肌シェイクを、レニィに飲ませよう。
そう考えたホルツは、レイトウバナナを取り出した。
余ったアボガドを更にカットし、レイトウバナナを切っていく。
ミキサーを洗い、新たにアボガドとレイトウバナナを二分の一ほど入れた。
「シア、それを取ってくれ」
「これ? って何かしら」
「トウニュウだ」
シアから手渡されたのは、トウニュウだ。
百ミリリットルをミキサーの中に加えて、更にハチミツを小匙で入れておく。
後は、一度目と同じ要領でミキサーのスイッチをオンにして、シェイクしていくだけだ。
「なんだか少し色が違うわね」
「においも味も違う。バナナが入ってるからな」
くんくん、と犬のように鼻を近付け、シアが目を閉じる。
今度は毒味されないように気を付けながら、ホルツはコップへと注いだジュースを、レニィの前に置いた。
「これも飲むといい」
シアと言葉を交わす時よりも、柔らかめな口調で、ホルツが喋る。
言われて、レニィは二杯目を飲み始めた。
「……これも美味しい」
一度目とは異なるが、味は負けず劣らず。
アロエではなく、バナナの味が口の中に広がり、同時にアボガドの良さを引き出す。
「ねえっ、わたしの分もお願いするわ!」
「分かったよ、焦るなって」
ホルツの肩を掴み、シアが駄々を捏ねる。
もう一つコップを用意し、ホルツはバナナ入りのアボガドジュースをシアに手渡す。
それをぐびぐびと飲み干して、シアは満足気に微笑んだ。
「あの、どうして……」
とここで、レニィが恐る恐る口を開く。
どうして、優しくしてくれるのか。それが知りたかったのだ。
「決まっているでしょう」
すると、シアはレニィの頭を優しく撫でる。
くすぐったさに目を瞑り、レニィは肩を震わせた。
「此処は空腹街、お腹を空かせた人を満足させるのが、此処で腕を競い合う料理人達のお仕事なの」
レニィは、お金が無い。
更には、浮浪者のような恰好をしている。
誰もが腹を満たすことが出来ると謳う空腹街と言えども、レニィのような恰好の者を、客とは呼ばない店は少なくない。
だが、中には例外もある。
それが此処、名も無き料理屋だ。
「次はゴハンを作るか」
「ゴハンッ! わたしはそれを待っていましたわ!」
「シア、お前の分じゃないからな」
「えっ!?」
二人の言い合いに、レニィは初めて、頬を緩めた。
その顔を見た二人は、同じように笑みを浮かべる。
「わたしの名前はシア。そして、こっちの料理が上手な人がホルツね。貴方の名前は?」
レニィは、シアの手を握る。
ギュッと握手を交わし、アボガドジュースで潤う喉を鳴らし、返事をする。
「レニィ」
迷い込んだ先が、此処で良かった。
レニィは、二人の顔を交互に見ながら、そう思うのだった。
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