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店の床に寝転んで考え事をしていると、戸を叩く音が聞こえてくる。
「開いている」
霊斬が低い声で応じると、千砂が店の中に入ってきた。
「昼間の騒ぎ、見させてもらったよ」
「そうか」
「素人相手だったから、あんたには楽だったかい?」
千砂がにやりと笑いながら尋ねた。
「まさか。素人相手が一番面倒だ。今回は自滅してくれたが」
「あれには笑ったよ」
千砂が笑みを深くする。
「俺は呆れた」
笑う千砂に対し、霊斬は溜息を吐いた。
「とにかく、依頼人は守れたわけだね?」
「そうだな。今夜、桐野家にいってくれるか?」
「分かったよ」
千砂はそれだけ告げると店を後にした。
それからだいぶ経った夜中、千砂は忍び装束に身を包み、桐野家へ向かった。
「なんじゃと! しくじった?」
そんな大声に導かれ、千砂は主の部屋へ足を向けた。天井の板を外し、覗き見る。
若い男と老年の男が、向かい合って座っていた。
「……はい」
「小判を惜しみなく払えば、良かったか……」
「畏れながら……問題はそこではないかと」
「なら、なんだというのだ?」
「手練れの人斬りを引き入れれば良かったように思います。そのような者、幻鷲を於いて他にいませんが」
「あやつはもう人斬りから身を引いた男だ。かつてどれだけ殺めたかとて、今人斬りでなければ使い物にならん」
「そうかもしれませんね……」
若い男はそう言うしかなかった。
「誰が邪魔をした?」
「幻鷲にございます」
「なぜだ? あやつにはなにも関係がないはずでは?」
「はい。幻鷲の動きだけが気がかりでございます。しばらく見張りますか?」
「そうだな」
「かしこまりました」
若い男は頭を下げると、部屋を出ていった。
千砂はしばらくその場に留まったが、早く霊斬に知らせなければと思い、そのまま店へ向かった。
日付が変わる時刻、千砂は霊斬の店の戸を叩いた。
「どうした?」
戸の隙間から、霊斬が顔を覗かせる。
「遅くに悪いね。すぐに知らせなきゃいけないことがある」
千砂が口早に告げると、霊斬は戸をさらに開け、身を引く。
千砂は周囲に一度視線を走らせると、店に足を踏み入れた。
彼女がなにかを警戒しているのを悟った霊斬は、周辺に視線を走らせて、戸を素早く閉めた。
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