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「それで?」
霊斬は空の徳利二本を持って、そこから退かすと、千砂に座るように促した。
「ずいぶん呑んでるじゃないか」
「それよりなんだ?」
霊斬が急かす。
「あんたが元人斬りであること、桐野光郎は知ってたよ。それと、あんたのところにしばらく見張りがつくことになった」
「そうか、分かった。その間はそば屋にいかないことにする」
千砂はうなずくと、静かに店を去った。
千砂が去ってから、霊斬は一人、酒を呑みながら呟いた。
「しばらく、息が詰まりそうだ」
それから空が少し明るくなってくるまで呑み続けた霊斬は、寝床へ向かった。
翌朝、二日酔いで頭の痛い霊斬は、店を出て伸びをする。
そして、普段ない気配を感じて、溜息を吐いた。
店の近くに一人、店の斜向かいに一人、見張りと思しき気配を感じた。
――もうきていたのか。
霊斬は内心でそう思いながら、店の中へと戻っていった。
見張りがついても、霊斬はいつも通りに店を開けた。
刀を研いだり、直したりしながら、気づけば夕方になっていた。
店の外に向かうと、見張りはまだいるようで、霊斬は舌打ちをした。
その日の夜、酔い覚ましに店の外へ出た霊斬は、夕方まであった気配が消えていることに気づいて、内心安堵した。
翌日の夕方、依頼人が顔を出した。
「先日は危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
奥に通すや、米問屋の主はそう言って頭を下げた。
「通りかかっただけですよ」
霊斬は苦笑した。
「あんなことは今まで一度もなかったので、なにか今回のことと関係があるんでしょうか?」
主は疑問を口にした。
「それはなんとも言えません」
「そうですか。あ、これを」
主は慌てて言い、財布から小判五両を差し出してきた。
「ありがとうございます」
霊斬は言いながら、小判を受け取ると袖に仕舞った。
「では、私からはこれを」
霊斬は修理した小太刀を差し出した。
主は礼をして受け取る。
「桐野家は私の方でなんとかします」
「よろしくお願いいたします」
主は頭を深く下げると、店を去った。
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