第二章 米問屋

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「それで?」  霊斬は空の徳利二本を持って、そこから退()かすと、千砂に座るように促した。 「ずいぶん呑んでるじゃないか」 「それよりなんだ?」  霊斬が急かす。 「あんたが元人斬りであること、桐野光郎は知ってたよ。それと、あんたのところにしばらく見張りがつくことになった」 「そうか、分かった。その間はそば屋にいかないことにする」  千砂はうなずくと、静かに店を去った。  千砂が去ってから、霊斬は一人、酒を呑みながら呟いた。 「しばらく、息が詰まりそうだ」  それから空が少し明るくなってくるまで呑み続けた霊斬は、寝床へ向かった。  翌朝、二日酔いで頭の痛い霊斬は、店を出て伸びをする。  そして、普段ない気配を感じて、溜息を吐いた。  店の近くに一人、店の斜向かいに一人、見張りと(おぼ)しき気配を感じた。  ――もうきていたのか。  霊斬は内心でそう思いながら、店の中へと戻っていった。  見張りがついても、霊斬はいつも通りに店を開けた。  刀を研いだり、直したりしながら、気づけば夕方になっていた。  店の外に向かうと、見張りはまだいるようで、霊斬は舌打ちをした。  その日の夜、酔い覚ましに店の外へ出た霊斬は、夕方まであった気配が消えていることに気づいて、内心安堵した。  翌日の夕方、依頼人が顔を出した。 「先日は危ないところを助けていただき、ありがとうございました」  奥に通すや、米問屋の主はそう言って頭を下げた。 「通りかかっただけですよ」  霊斬は苦笑した。 「あんなことは今まで一度もなかったので、なにか今回のことと関係があるんでしょうか?」  主は疑問を口にした。 「それはなんとも言えません」 「そうですか。あ、これを」  主は慌てて言い、財布から小判五両を差し出してきた。 「ありがとうございます」  霊斬は言いながら、小判を受け取ると袖に仕舞った。 「では、私からはこれを」  霊斬は修理した小太刀を差し出した。  主は礼をして受け取る。 「桐野家は私の方でなんとかします」 「よろしくお願いいたします」  主は頭を深く下げると、店を去った。
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