終 章 真実

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 霊斬にとっては、整だけでなく、この家が憎かった。鮮血で廊下を汚しながらも、くるときは見逃していた、人のいる部屋へ向かった。襖を開けるや、驚いた人を無差別に斬りつけた。続いて次の部屋へ。次々に襖を開け、斬りつける。それを繰り返した。  全部の部屋を見回るのに、かなり時間がかかってしまった。霊斬の身体も限界だと言わんばかりに、痛みと熱を訴えていた。  霊斬は痛む身体に抗いながら、屋敷を後にした。  千砂はその後の霊斬の動きに驚かされながらも、後を追った。 「霊斬」 「千砂か」  芹野家を後にした二人は、途中で合流した。  霊斬は念のため、刀を杖代わりにして歩いていた。 「あたしの絶望に、いつから気づいていたんだい?」  千砂は霊斬に駆け寄るや、口を開いた。 「最初から。お前がいつもよりはしゃいでいるのを見てな」  霊斬は苦笑する。 「それを今まで言わなかったのかい。本当にあんたは、隠すのが上手いねぇ」  千砂は溜息混じりに言った。 「だから、芹野のやり方に腹が立った。あんな真似するくらいなら斬ってやろうとすら思ったぞ」 「同感だね。ありゃ、(くず)だよ」  千砂が鼻で嗤う。 「そうだな」  霊斬がうなずく。 「どうして、屋敷にいた人達全員を傷つけたんだい? そんなぼろぼろなのに」  千砂が尋ねた。 「芹野整も憎いが、あの家自体が憎かったんだよ。だから、壊してやった」  霊斬は冷ややかな声で告げた。 「ありゃあ、下手人(げしゅにん)と勘違いされてもおかしくないねぇ」 「斬られた本人が、そうじゃないと言っているだろうさ」  霊斬は苦笑した。  二人はゆっくりとした足取りで、診療所を目指して歩き続けた。  それからだいぶ経ち、日が昇った時刻に、二人は四柳の診療所に到着した。  霊斬が戸を叩く。 「誰だ! こんなに朝早く!」  苛立ちながら戸を開ける四柳と目が合った。 「寝起きのところ、悪いな」 「さっさと上がれ」  四柳は怒りを引っ込めて言うと、そそくさと奥の部屋へと消えた。  そんな四柳に苦笑しながら、霊斬は奥の部屋へ向かった。 「診せろ」  四柳の開口一番だ。
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