第二章 米問屋

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 決行日当日、黒の長着に同色の馬乗り袴、黒の足袋、同色の羽織を身に着ける。隠し棚から黒刀を取り出して腰に帯びる。黒の布を首に巻いて、顎から鼻まで引き上げる。草履を履いた霊斬は、店を出た。桐野家近くの屋根で千砂と会った。 「依頼人には狙われていたこと、話したのかい?」 「話していない」  霊斬は即答した。 「どうしてだい?」 「話して余計に怖がらせるのは、気分が悪い」 「そうかい」  千砂はそれだけ聞くと、桐野家へ向かった。  霊斬は彼女の後に続いた。  霊斬が屋敷に足を踏み入れると、声が聞こえてきた。 「曲者だ~!」  どたばたと、武器を持った男達が出てくる。およそ五人。  霊斬は動じることなく、黒刀を抜く。男達の右腕に狙いを定め、歩いていく。  まずは一人。繰り出してきた攻撃を躱し、右腕を斬りつける。  (うずくま)った男を蹴って退かすと、二人目の男の刀が目前に迫る。それを受け止めると、一歩大きく踏み込む。()された男は体勢を崩す。その隙をついて霊斬は右腕を斬りつけた。  三人目、四人目、五人目と同時に攻撃を繰り出してきたので、次々に斬りつけていった。  五人の壁を突破すると、それよりも多い人数――十人が武器を手に、霊斬を待ち構えていた。しかし、全員腰が引けている。先ほどまでの霊斬の動きを見ていたからだろう。五人ずつ一列に並んで、じりじりと霊斬に近づいてくる。  ――鬱陶(うっとう)しいな。  霊斬は内心で溜息を吐くと、黒刀を振りかざして、その中に突っ込んでいった。第一波は驚いている隙に、右腕や左脚を斬りつける。第二波は繰り出される刀をすべて躱し、それぞれ左腕を斬りつけた。  斬りつけられた男達全員が、床に蹲って痛みに呻いている。  その様子を鼻で(わら)うと、霊斬は先に進んだ。  千砂はその様子を中庭に身を潜めて見ていた。  霊斬がいくのを待ってから、屋根裏へと足を向けた。  千砂が目星をつけた部屋の天井の板を外すと、部屋の一角に座る、老年の男を見つけた。  騒ぎを感じ取ったのか、その手には刀が握られている。  千砂はその場で息を殺し、様子を見守った。
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