第二章 米問屋

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 終了後、屋敷近くの屋根で、霊斬は千砂に会った。 「今回は手だけですんだのかい」  千砂が苦笑する。 「まあな。四柳には怒られるかもしれないが」  霊斬もつられて苦笑する。右手はまったく動かせず、傷口からぽたぽたと鮮血が滴っている。  霊斬は着物の袖を破くと、傷口に巻いた。しかし、片手だけではきつく縛ることができない。 「手を貸してくれ」 「どうすればいいんだい?」  霊斬の声に千砂が応じる。 「これを縛ってほしい。できるだけ、きつく」 「余計痛むじゃないか」  千砂が言う。 「一時だけだ。このままにしておくと出血死に繋がりかねん」 「まあ、そうかもしれないけれど、少し大袈裟じゃないかい?」  千砂は苦笑しつつも、着物の切れ端をつかんで、できるだけきつく縛り上げた。  霊斬は声こそ出さないものの、思い切り顔をしかめた。 「早いとこ、いこうじゃないか」  千砂のその言葉を聞き、霊斬は足を速めた。  霊斬は黒装束のまま、千砂は一度隠れ家に戻って着替えたために、小袖姿で四柳の診療所を訪れた。 「俺だ」  霊斬が左手で戸を叩く。 「またお前か」  眠そうな顔をした四柳が顔を覗かせた。 「悪いな」 「まあいい。上がれ」  四柳はそう言って、戸を大きく開けた。  四柳の後に二人が続いた。  千砂は前の部屋で待たされ、霊斬は四柳の後を追った。 「()せてみろ」  四柳は短くそう言った。  霊斬は無言で、右手をひっくり返した。  止血のために縛っていた着物の一部を外す。右手は斜めに走る痛々しい刀傷が目を引いた。血がどくどくと流れ、止まる様子がない。 「また酷い傷だな」  四柳は複数の薬草を無造作につかんで、()(げん)の器に入れる。それを混ぜながら、溜息を吐いた。  霊斬は無言。 「今、腰に帯びているその刀は、使えないのか?」 「使だけだ」  霊斬が無愛想に答えた。 「使え、馬鹿」  すかさず四柳の突っ込みが入る。混ぜた薬草を丹念に布に塗る。 「……そうだな」  霊斬が短く答える。 「沁みるが我慢しろよ」  四柳はそう言うと、薬草を塗った布を傷口に当てていく。  霊斬は顔をしかめるだけで、なんとかやり過ごした。  その後、四柳は慣れた手つきで布を固定するために晒し木綿を巻く。 「終わったぞ」 「……そうか」  霊斬はそれだけ口にすると、千砂がいる部屋に足を向けた。
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