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伊之介を追う千砂は、彼の自室に辿り着いた。
「……いつまで私の派閥の中で、ああして、騒いでいるのだろうか」
――もううんざりだ。
伊之介は溜息を吐いた。
「気に入らん奴がいる。それだけの理由で、ここまで衝突していては、いっこうに自身番をまとめられないではないか」
伊之介は再び溜息を吐く。
千砂は考える。
――伊之介はただ表立っているだけで、久五郎が偉ぶってる?
その疑念を晴らそうと、千砂は先ほどの部屋へと戻る。
天井の板を外し、様子を窺うと、ある男の愚痴で盛り上がっていた。
主に愚痴を言っているのは久五郎だけで、他の者はそれに同意している。
――伊之介の笠に入って、悦に浸っているのだとしたら、本当の敵が変わってくる。
千砂は天井の板を元に戻すと、霊斬の店へ向かった。
月が一番高く昇るころ、千砂は忍び装束姿のまま、霊斬の店の戸を叩いた。
「……開いているぞ」
一呼吸遅い応答に苦笑しながらも、千砂は静かに戸を開け身体を滑り込ませた。
理路整然と並べられた商品の間を抜け、開けた場所、依頼人と話をするところまでいくと、ゆっくりと身体を起こす霊斬の姿があった。
床にはおそらく空の徳利が三つ。それと盃がひとつ、無造作に転がっている。
ずいぶん呑んでいるというのに、霊斬の顔はいつもと変わらなかった。
――どういうこと?
千砂は内心で突っ込みを入れる。
「……こんな時刻に、どうした?」
千砂は本題を告げることにした。話をしている間に寝られてしまっては困る。
「美里家にいってきたんだけれど、伊之介は自身番を一枚岩にできないかと考えている。それから黒幕は別にいる。久五郎という男。伊之介が表立っていることをいいことに、好き勝手やっているらしい。それから六日後に、依頼人の主の家を襲うと酔った勢いで決めていた」
「酒は呑んでも呑まれるなとは、よく言ったものだな。決行日と同じか。そんな奴らさっさと自身番に突き出してやろう」
霊斬は話しているうちにいつもの調子を取り戻したらしく、鼻で嗤った。
「で、どうするんだい?」
千砂が先を促す。
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