4人が本棚に入れています
本棚に追加
同日の夜、黒の長着に同色の馬乗り袴、黒の足袋、同色の羽織を身に着ける。隠し棚から黒刀を取り出して腰に帯びる。黒の布を首に巻いて、顎から鼻まで引き上げる。草履を履いた霊斬は、引き戸を開けた。
外は雨が降っている。夜の街を駆け、古野家へ向かった。
途中で千砂に会わないまま、霊斬は屋敷に辿り着いた。
近くの屋根に上って様子を見る。
武装した男達が二人、歩いている。
「曲者!」
出会い頭に敵に出くわした二人は、刀を抜き戦闘態勢に入る。
――もうきていたのか。
霊斬は思いながら、視線を走らせる。
屋敷の門近くに、でんと構えているのは久五郎であった。その隣には伊之介も控えている。彼らも含め、総勢十人。これだけ広い屋敷だ、それぐらいは必要だろう。精鋭を揃えてきたはずだ。
「かかれ~!」
久五郎の声が聞こえてくる。
一方、忍び装束を纏った千砂は一足先に、屋敷の屋根裏に忍び込んでいた。古野家の面々はというと、突然の襲撃に驚きながらも必要最小限の武装をし、奮戦していた。
その様子を彼女は見守る。
霊斬はまだ屋根の上にいた。
屋敷の者達も次々に出てきては、戦闘に加わっていく。その中には得太郎もいた。多くの敵を屠っている。
その様子を忌々しげに眺めているのは久五郎だ。
――得太郎と久五郎をぶつけさせるのもいいが、ああしてふんぞり返っている奴を見るのはもうごめんだ。
霊斬はそう思うと、屋根から飛び降り、久五郎の死角から襲い掛かった。走りながら鯉口を切り、刀を振りかざした。
久五郎まであと一歩というところで、別の者の妨害を受けた。
刀同士がぶつかり合う音が響く。
「よく分かったな」
霊斬は忌々しげに舌打ちをし、低い声で言った。
黒刀を受け止めたのは伊之介だった。
「ただの勘でござる」
互いに力を込めているので、刀同士がかたかたと音を立てる。
「そうか。そいつは、貴様が命を懸けてでも守らなければならないのか?」
「答える必要はない」
伊之介はそう言って、刀を弾き返してきた。
「面白い」
霊斬は布の下で、口端を吊り上げて嗤う。
最初のコメントを投稿しよう!