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霊斬は黒装束姿のまま、四柳院診療所の戸を叩く。
「俺だ」
「さっさと上がれ」
四柳はそれだけ告げると、戸を大きく開けた。
霊斬が入ると戸を静かに閉めた。
「きていたのか」
奥の部屋にいこうとした霊斬だったが、千砂の姿を見つけて、足を止めた。
「あんたじゃないんだから。さっさと治療してもらいな」
千砂は苦笑して言い、奥の部屋へいくよう促した。
「ああ」
霊斬も苦笑すると、奥の部屋へ足を踏み入れた。
「診せろ」
四柳がぶっきらぼうに言った。
霊斬は胡坐をかいて座ると、握っていた左手を開いて、左腕を突き出す。
肩から肘にかけて、刺し貫いたときについた刀傷があった。傷口からはどくどくと鮮血が溢れ出している。
「脱げるか?」
「ああ」
霊斬は静かな声で応じ、傷に触らないよう注意しながら、慎重に羽織と上着を脱いだ。傷だらけの上半身があらわになる。
――何度見ても、酷い身体だ。
四柳は霊斬の身体を見て思う。
いくら他人を見捨てられないからと言って、自身を犠牲にしていては、割に合わないとさすがに気づくだろう。気づいていながら、それをやめない霊斬にはなにを言っても通じない。ただ、どんな状態になっても、診療所にきてくれる霊斬には感謝しかない。いくら素直になれなくても、生きてやる! という執念に似た想いを、四柳は感じている。
四柳は霊斬に手当てをしながら、思う。
――だから、俺は治してやろう。霊斬の生き方がどうであれ、関係ない。生きたいという意思を尊重する。それだけだ。
「終わったぞ」
四柳は晒し木綿を巻きつけると、短く告げた。
霊斬は脱ぎっ放しの羽織と上着を畳む。
「あまり動くな、それと今日は泊まれ」
「分かった」
珍しく素直にうなずいた霊斬は、そのままの恰好で、近くにあった布団に身を横たえた。
「嬢ちゃん、終わったぞ」
四柳は千砂がいる部屋へいき、治療が終了したことを告げた。
「入ってもいいかい?」
「ああ」
千砂は立ち上がって、静かに霊斬の許へ向かった。
霊斬は天井をぼんやりと眺めていた。
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