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「霊斬」
「どうした?」
霊斬が首だけ向けて尋ねた。
千砂が枕元に座ると、霊斬はゆっくり身体を起こした。
「無理、してんじゃないだろうね?」
千砂の鋭い声が飛ぶ。
「無理? していない」
霊斬は苦笑した。
千砂は霊斬の傷だらけの身体を見て、押し黙る。
「……見るのは、初めてか?」
霊斬の優しい声に、うなずく千砂。
彼の身体には古傷から、真新しい傷まで数多くの傷跡が無秩序に刻まれている。古傷の中には白くなっているものもあり、真新しい傷はまだ赤みが残っている。とても人に見せられた身体ではない。誰もが少なからず、醜いと思うだろう。
千砂は音もなく涙する。口許を押さえ、泣き声を押し殺す。
だが、千砂は醜いとは思わなかった。
ただ、辛かった。こんな身体になってもなお、誰かを頼ろうとしない霊斬を哀しく思った。
「ついでだ。……背中も見てみろ」
千砂は霊斬の言葉に驚き、彼の顔を凝視する。
「どんな状態か、知りたいだけさ」
そう言い、霊斬は力のない笑みを浮かべた。
千砂は涙を拭きながら、ひとつうなずくと、霊斬の背後に回る。
「……っ!」
目の前に広がる光景に、千砂は言葉を飲み込んだ。
かつて拷問を受けたという火傷の痕は霊斬の背中、ちょうど前から見ると左肩あたり。蟹足種になっており、皮膚が引き攣っている。全身を覆う傷よりも痛々しく見えた。それにこれほどの時が経っても、まだ赤みが引いていない。
「……皮膚が赤くて、引き攣っているところがあるよ」
「……そうか。……酷いか?」
霊斬の静かな声が千砂の耳朶を打つ。
「……酷い、酷すぎる」
千砂はその言葉を聞いて、元いた場所に座り直す。
「そうか……。悪かったな、酷なことをさせた。……このままでもいいか?」
霊斬は静かな声で尋ねた。
千砂のことを気遣っている、その優しさに彼女の涙は余計に止まらなくなった。
千砂は何度もうなずき、声を必死で押し殺した。
――霊斬はやっぱり、誰よりも人の痛みが分かる、優しい人だ。
千砂は内心で思いながら、音もなく泣いた。
その様子を見ていた霊斬は、思わず目を逸らしたくなった。
誰かが、泣いてくれる。
そんな経験、したことがない。
どうしたらいいのか分からなかった。ただ、傍にいることくらいしか思いつかなかった。だから――。
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