第三章 岡っ引き

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 霊斬は背中に手を伸ばし、不器用な手つきで、ぽんぽんと叩いた。 「泣いていいぞ。お前まで俺みたいになってもらっても困る」  千砂の耳許で、霊斬が囁いた。 「うるさいかもしれないよ?」 「構うものか」  霊斬が微笑し、不器用な手つきで千砂の涙をそうっと拭う。 「ありがとう」  千砂はそれだけ告げると、泣き出した。  その絞り出すような泣き方に、霊斬の心はきつく締め上げられたかのように感じた。  ――そんな泣き方があるか。子どものように大声で泣かず、必死に声を押し殺そうとして、それでもできない。  千砂の泣き方からして、そう思った霊斬は、痛む左腕を動かし、そうっと背中に置いた。  彼女が泣きやむまで、ずっとそうしていた。  それから少し過ぎた後――四柳が部屋の様子を見にいくと、霊斬の隣に疲れ切って眠る千砂の姿があった。 「落ち着いたか」 「ああ。ちょうどいいところにきた、毛布かなにかあるか?」 「ここは宿屋じゃねぇんだよ」  四柳が毒づく。 「心が少し、疲れたんだろう。患者だろ?」 「おれは診ていない。腕は? 痛まないのか?」  四柳が即答し、尋ねてきた。 「……痛む」  霊斬が顔をしかめて言った。 「素直に言え、馬鹿」  四柳は突っ込むと、部屋を去る。  どうしたのかと思い待っていると、しばらくして、毛布を持った四柳が顔を出す。
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