第三章 岡っ引き

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「風邪でもひかれたら困るからな」 「悪いな」 「お前からの謝罪はいらん」  四柳はその発言をばっさりと切り捨てた。  霊斬は右手で千砂の肩まで毛布を引っ張り上げると、静かに布団の中に身体を滑り込ませる。 「お前も、もう寝ろ」 「ああ」  その言葉を聞いた四柳は、部屋を後にした。  翌日、千砂は畳の上で目を覚ました。 「あの後……寝ちまったのかい」  千砂は苦笑して起き上がると、肩にかかっていた毛布が落ちた。  霊斬はまだ眠っているようで、千砂は昨日見たことを思い出しながら、仕事に向かうため診療所を後にした。  それから大分過ぎたころ、霊斬は目を覚ました。  隣に視線を向けると、きれいに畳まれた毛布が目に入る。  ――丁寧なところがあるんだな。  霊斬は苦笑して、ゆっくり身体を起こす。それでも左腕が痛んだ。 「起きたか」  顔を出した四柳にうなずく霊斬。 「この時刻だと目立つか……」  霊斬が難しい顔をしていると、四柳が言った。 「今日はいても大丈夫だぞ」 「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう。傷はどれくらいで治る?」 「三日。仕事はするなよ」 「分かった」  霊斬はうなずくと、四柳は部屋を去った。  それから数日後、岡っ引きが店を訪ねてきた。 「ありがとうな。刀屋!」 「いえ、私は依頼を達成したまでにございます」  霊斬は苦笑して言った。 「礼をしないとな」  岡っ引きは懐に手を突っ込んで、小判一両を差し出してきた。  それを受け取った霊斬は、こう言った。 「なにかありましたら、またお越しください」
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