第四章 鞘師

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第四章 鞘師

 それから五日後、仕事を再開した霊斬の許に、一人の男が訪ねてきた。 「この鍛冶屋町の外れで、鞘師をしている者ですが、少し時をもらえませんか?」  霊斬は無言のまま身を引き、鞘師を招き入れた。  案内し、互いに正座で腰を下ろし、鞘師が口を開いた。 「突然すみません。ここにくれば、会えると聞きました。〝因縁引受人〟に」 「その話は誰から?」  霊斬が静かな声で尋ねた。 「お得意様の武士から、何度もその話を聞きました」 「そうですか。人を殺めぬこの私に頼んで、二度と後悔なさいませんか?」 「はい、そのためにきたんです」  鞘師の決意に満ちた表情を見て、霊斬は口を開いた。 「修理前の武器はお持ちですか?」 「これを」  鞘師はそう言うと、短刀と銀十枚を、差し出した。 「確かに」  短刀は受け取ると脇に置き、銀はそのまま袖に仕舞う。 「では、本日はどのようなご依頼でしょうか?」 「さまざまなお客を相手に商売をしておりますが、一人だけ、面倒……というか、厄介な方がいまして」  霊斬は首をかしげる。 「厄介な客?」 「お得意様の中で、鞘をしょっちゅう壊す方がいるのです。新しいものをお渡ししても、半月も経たずに、また修理の依頼を受けます」 「その方に商品を売らない、ということにすればよろしいのでは?」  鞘師は首を横に振る。 「他の鞘師にも嫌われておりまして、たらい回しにされたあげく、私の店にきたのです」 「下手に追い出して、店に危害があると困るということですかな?」  鞘師は霊斬の言葉にうなずく。 「では、その方の名をお願いできますか?」 「仁部(にべ)陽一(よういち)というお方です」 「こちらでも調べてみますので、七日後、またお越しください」 「よろしくお願いします」  鞘師は頭を下げると、店を去った。
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