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少年はなにも言わずに俯いている。
「武士は勉学だけでなく、武術もできなければならんのだ。それは何度も言っている。そうだよな?」
「……はい」
少年は小さな声で答えた。
「なぜ、できない?」
「苦手なものは……苦手です。どう工夫しても、うまくいきません」
小さな声で、しかし、はっきりと少年は口にした。
「そんなわけがないだろう! 努力が足らんのだ!」
男は怒りだし、鞘を振り上げては畳に叩きつける。
少年はその様子と、抜き身の刀に釘付けになっている。
いつ、刀を取るか分からない。その恐怖で、少年は硬直していた。
その様子を見ていた千砂は、少年が可哀そうだと思いながら、屋敷を後にした。
翌日の夜、霊斬は隠れ家を訪れた。
「入ってもいいか?」
「どうぞ」
千砂が言いながら戸を開け、霊斬を招き入れた。
「どうだった?」
霊斬は床に胡坐をかいて座ると、口を開いた。
千砂は彼と向かい合う位置で正座をし、話し始めた。
「説教をしながら、鞘を畳に叩きつけているから、壊れるんだ。それに抜き身の刀も近くに置いていたからね、息子にしてはとても怖かったはずさ」
「鞘はそんなふうに使うもんじゃない。そうだろうな」
霊斬は冷ややかな声で応じた。
「そうだね。説教の原因は、息子が文武両道じゃないことが許せない。苦手なものは誰だってあるだろ?」
「ああ、それを息子が言ったのか?」
「そうさ」
「大した息子じゃないか」
「小さい声だったけどね」
「それでもいい」
霊斬が苦笑する。
「問題は父親だな。鞘をそんなふうに扱うことも許せんが、父親自身の認識を変えなければ」
霊斬が先ほどの表情を一瞬で消して、告げた。
「そうだね」
千砂はただ同意した。
「情報、感謝する」
霊斬はそれだけ告げると、隠れ家を去った。
霊斬は店に戻り、短刀の修理に入った。
細かい瑕がついている程度だったので、目の細かい砥石で研ぐことにした。
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