第四章 鞘師

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「それで、今回はどこだ?」  四柳の問いかけに、霊斬は無言で上着を脱いだ。 「また酷いな」  四柳は溜息混じりに言った。  左腕は肩近くから二の腕をざっくりと斬り裂かれ、傷は肘くらいまで。深い上に大きな傷だった。着替えてきた着物にも、血がべっとりとついていた。 「腹を斬られるよりはましだ」  霊斬は苦笑して答えた。 「そうかもしれんがな……」  四柳は溜息を吐く。言葉を無くしたまま、治療に入った。  しばらくじっとしていると……。 「終わったぞ」  布団の上に胡坐をかいて座り、晒し木綿が巻かれた左腕をあらわにした霊斬が、深く息を吐いた。 「嬢ちゃん、入っていいぞ」  四柳が千砂の方を覗きながら、声をかけた。 「そうかい。具合はどうだい?」  千砂が枕元まできて尋ねた。 「まだ痛むが、斬られた直後よりましだ」  霊斬の言葉に、千砂はうなずいた。 「七日……ってところだろうな」 「治るまで、それなりにかかるんだな」 「あれだけ酷ければな」  四柳の一言に、霊斬は苦笑するしかない。 「怪我をしないようにってことはできないのかい?」  千砂の提案に霊斬は苦笑した。 「そういうふうに努めたがな、傷を気にして相手の懐に入り込めなくなったんで、やめた」  はっきりと告げられて、千砂もつられるように苦笑した。  夜が明けたころに、店に戻った霊斬は、昼間まで眠ることにした。傷が痛んでなかなか寝つけなかったが。  それからだいぶ経った、昼間。店の戸を叩く音が聞こえてきた。 「いらっしゃいませ」  愛想笑いをはりつけて表へ出ていくと、客は依頼人の鞘師だった。 「こちらに」  霊斬は商い中の看板をひっくり返すと、鞘師を案内した。 「どうでしたか?」  鞘師は重い口を開いて、尋ねた。 「鞘を雑に扱うことはやめると、本人の口から聞きました」 「それは良かったです」  鞘師は笑みを見せつつ、懐から銀十五枚を差し出す。 「ありがとうございます」  霊斬は礼を言いながら、銀を受け取り、袖に仕舞う。すると、鞘師は店を去った。
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