第五章 団子屋

1/11
前へ
/119ページ
次へ

第五章 団子屋

 それから十四日後、霊斬の怪我もだいぶ良くなり、近くの団子屋へ足を向けた。 「いらっしゃい!」 「みたらし団子を二本、もらえるか?」  霊斬は言いながら、椅子に座る。 「あいよ!」  店の親父の元気な声に、霊斬は苦笑した。 「はい、みたらし団子、二本!」 「いただこう」  霊斬はお茶を置いて、団子を頬張っていると、奥の席から悲鳴が聞こえてくる。 「やめてください!」  声のした方に視線を向けると、店の女の身体を触ろうとする男の姿があった。  霊斬はちょうど、一本の団子を食べ終えていた。仕方なく立ち上がり、男に声をかけた。 「嫌がっているじゃないか。離してやれよ」  女を庇うように、霊斬は前に出る。 「邪魔するな!」 「ここは遊郭じゃあない。団子屋だ。そのことを理解しても、まだやめないか?」  穏便にすませようと、できるだけ静かな声で言った。 「……分かったよ」  その男はお代を椅子に置いて、店を去った。  安堵の溜息を吐いたのは、絡まれた娘とこの店の親父だった。 「ありがとうございました」 「助かったよ」 「礼などいい。それよりも親父」 「なんだい?」 「客の相手、男にしたらだめなのか?」 「そうしたいが、新しい人、見つからんのさ。それにその子は、いろいろと、細かいところに気が利く子でね」 「そうかい」  霊斬はそれだけ告げて、元いた席に戻って団子を食べた。  それから、七日後、店の戸を叩く者がいた。 「いらっしゃいませ」  訪れた人物に霊斬は目を丸くした。  彼の前に立っていたのは、団子屋の親父だった。 「話したいことがあるんだ。ちょいといいかい?」  霊斬は黙って、身を引き親父を招き入れた。  店の奥の方まで、親父を案内すると、床に座る。  霊斬も親父と向き合う形で、腰を下ろす。 「親父、なにがあった?」  親父の顔色が悪いことに気づいた霊斬は、声をかけた。 「あれから、店に問題のお客がこなくて、ちょっと安心していたんだ。だけど、昨日、店の娘が連れ去られそうになって、大騒ぎになったんだ。すんでのところで、他の店の男達で取り押さえられたから良かった。お客さんの中で、こんな人がいるらしい」  霊斬は知らん顔をして、尋ねた。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加