第五章 団子屋

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 それから七日が経ったある日、親父が店を訪れた。 「失礼するよ」  そう言った親父を店内に招き入れた霊斬は、最初に懐刀を差し出した。 「ありがとうね」  親父は大事そうに懐へ仕舞った。 「まだ、決行がいつだというふうには言えない。すまない」  霊斬は頭を下げる。 「急いでいるわけではないし、今は店の方も大丈夫。頭を上げて」  霊斬は言われるまま、頭を上げる。 「それならいいのだが……」  霊斬はそれだけ呟いて口を噤む。 「それよりも、これを」  親父は懐から銀五枚を取り出し、差し出した。 「感謝する」  霊斬は礼を言いながら、銀を受け取り、袖に仕舞った。  立ち去る親父を見送りながら、霊斬は暗い顔をしていた。  見張りを続けて、七日が経った。  朝起きる時間もずらし、その生活にも慣れてきた。  その日の夜、いつもの黒ずくめの恰好をして、刀を帯びると、団子屋へと足を向けた。  そのころ千砂はというと、忍び装束に身を包み、霊斬の店を見張っていた。  霊斬はそんなこと知りもせず、いつも通りに店を後にした。  千砂は屋根へ飛び乗ると、霊斬を追った。  実は三日前から、千砂は霊斬の動きを密かに盗み見ていた。  霊斬を疑っているわけではない。様子が気になっただけだ。  霊斬からは見えない場所で、身を潜めていると、一人の男が通りを歩いていった。  並々ならぬ殺気というか、気配を感じたが、気のせいかと思い直した。  霊斬は、通りを歩いている男に視線を向ける。  刀を持っていることから武士だと分かったが、なにか違和感を覚え、その男を注視する。  霊斬がその男を見ていると、彼は団子屋の戸を叩いた。 「ごめん! みたきさんはいるか?」 「おりますよ、少々お待ちを」  霊斬は一歩、二歩と、男との距離を詰める。  男の立ち姿が変わる。  ――あれは刀を抜く構え……。まさか……!  霊斬は自分の推測を否定したい気持ちに駆られながら、通りに飛び出した。 「待て!」
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