第五章 団子屋

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 霊斬が止めるのと、みたきが出てくる。それが同時だった。  みたきを後ろへ突き飛ばした霊斬は、刀を抜きながら、男へ迫った。 「あと少しというところで……! なに奴」  男は悔しそうな顔をした後、霊斬を睨みつける。  霊斬は男から視線を離さない。 「みたきと言ったか。このことは伏せて、家に戻れ」 「なにを(おっしゃ)っているのです! そういうわけには……」  みたきが気丈にも、食いついてくる。 「……足手まといだ。さっさと言うとおりにしろ」  霊斬は男から視線を離し、地を這うような低い声で告げた。冷ややかな目でみたきを睨みつける。 「ひっ……!」  怯えたみたきは一目散に家へと戻った。 「お主はわしの邪魔しかせんのか!」 「まあ……そうだな」  男の怒りの滲んだ声に対し、軽い口調で返す霊斬。  忌々しげに顔を歪める男。 「刀を仕舞ってこのまま去ってくれれば、俺としては楽なんだが?」 「断る!」  男は斬りかかってきた。  霊斬は、だらりと下げた刀を持ち上げ、これを防ぐ。  悔しそうに顔を歪めた男が、再度攻撃を仕掛けてくる。  その攻撃をあえて左腕に受けた霊斬は、斬られて鮮血が噴き出しても、動じなかった。 「なぜ、動じない?」  男は思わず尋ねた。 「隙を見せないためだ」  霊斬は冷ややかに吐き捨て、刀を構えて反撃に出た。  右腕を斬りつけると、男が動じて距離を取ろうとする。それをさせまいと距離を詰めた霊斬は、左肩に刀の切っ先を差し込んだ。 「ぐあっ!」 「動かなかったのは賢明だ。手を滑らせてさらに刺したかもしれないからな」  霊斬は冷ややかな声で告げる。 「これ以上、騒がないことだな。騒ぎを聞きつけられても困る」  霊斬は言いながら、鮮血の滴る左腕を強引に上げ、男の口を塞ぐ。 「なっ……!」  その拘束と、鼻を突き刺す鮮血の匂いから逃れようと、首を動かすが(ほど)けない。 「これで終わりだと思うなよ?」  霊斬は告げ、布の下で口端を吊り上げて嗤い、目を細める。  無情にも霊斬は、男の右肩を痛めつけている刀をゆっくりと奥へ差し込んだ。 「うっ……!」  男が叫ぼうとする。それを痛む左手で強引に押さえつける。  刀の切っ先が体内に入り込むのが分かったので、そこでいったん、動きを止める。  肉が反発し脈打つのと、さらなる鮮血が刀身をはじめ、男の着物を染めていく。 「まだだ」
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