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「診せてみろ」
奥の部屋に入るや、四柳は口を開いた。
霊斬は、上着を脱ぎ、左腕をあらわにした。
左手に巻いていた手拭いはすでに鮮血で真っ赤に染まっていた。それを手早く解き、左腕を突き出した。
「どうしたらこんなに酷くなる?」
四柳は傷を見て溜息を吐く。
左腕は肩の辺りから、手首の近くまでざっくりと斬られており、とめどなく鮮血が溢れ出している。
「怪我しているのに、無理に力を入れただろう」
「それも分かるのか」
霊斬は驚いた表情をする。
「分かるぞ、そんなこと」
四柳は吐き捨てた。
また溜息を零した四柳は薬草を引っつかんで、薬研の中に放り込む。それを混ぜながら、口を開いた。
「どうしてそうなるまで放っておいた?」
「……敵の口を封じるためだった」
「どうしたのかは知らんが、敵もお前も相当痛かったはずだよな」
霊斬は苦笑するしかない。
「霊斬よ。自分の身体、大事にしないこと、どう考えている?」
霊斬は困ったような顔をする。
「どうと言われてもな。それが俺の中では普通だ。自身が可愛いなどという理由で、この裏稼業、辞めたりはせん」
「なら、お前はいつになれば、この裏稼業を辞める?」
四柳の問いに、霊斬は苦笑した。
「さあな。この世から、負の感情が消えるまで……だろうな」
「そりゃあ、いつになっても終わらんぞ」
四柳が笑う。四柳は、混ぜた薬草を丹念に布に塗り始めた。
「そうだな」
霊斬もつられるように苦笑した。
「ほら、できた。腕を貸せ」
四柳が言うと、霊斬は黙って左腕を差し出す。
「沁みるぞ」
四柳はそれだけ告げると、一気に薬草が塗られた布を、傷の上に置いた。
「くっ……!」
相当沁みたのだろう、霊斬は思わず喉の奥から声を漏らす。
「それだけの痛みによく耐えたとおれは思うぞ。今感じている痛みより、声を封じていたときの方が痛かろう?」
「……そうだな」
霊斬は脂汗をかきながら、ゆっくりと言葉を発した。
「動けないだろ?」
四柳は言いながら、手早く晒し木綿を巻きつけ、布がずれないように固定する。
「ああ」
左腕が痛みのために熱を持ち、ずきずきと痛んでいる。腕を動かそうにも痛みが酷く、それができない。
腕を伸ばしたまま、布団に移動し、ゆっくりと身体を滑り込ませた。
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