第五章 団子屋

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 四柳はそれを見た後、千砂を呼びに戻った。 「終わったぞ、待たせたな」 「気にしないでおくれ。それで、様子は?」 「いけば分かる。それと今晩は、ここで休ませる」 「分かった」  千砂はうなずくと、奥の部屋へ足を踏み入れた。 「失礼するよ」 「ああ」  霊斬の少し元気のない声を聞いた千砂は、心配にはなったが、顔にはそれを出さなかった。  千砂は黙ったまま、霊斬の枕元に正座をする。  霊斬は首だけを動かし、千砂の方を見る。 「腕、痛むかい?」  霊斬はうなずく。 「懲りないのかい? こんなに怪我して」 「ああ。……ったく」  痛みに顔をしかめた霊斬が、忌々しげに呟いた。  千砂はそんな霊斬を見て溜息を零す。 「傷つくあんたを見ていると、哀しくなる」 「哀しい?」  霊斬は首をかしげる。 「他人のために命を懸けて、こんなことまでしているのに、金を受け取るだけでなんて。依頼人の覚悟ひとつで、あんたは(いくさ)に出ていく。なんの躊躇いもなく」 「そうだな」  霊斬はうなずく。 「あんたには、恐怖って感情がないのかい!?」  千砂は言いながら、霊斬に詰め寄る。 「恐怖か……。ほとんど感じていない」  目に涙を溜めている千砂に対し、霊斬はいつもと変わらぬ口調で告げた。 「感じていないって……。もしかして、怖いって、一度も思ったこと、ないのかい?」  千砂は愕然としながら、言葉を紡ぐ。 「……そうかもしれない」  霊斬はしばし考えるように、視線を彷徨(さまよ)わせた後言った。 「一番苦しんで、悩んで、怖がっているのは、依頼人だ。それに比べたら、俺の恐怖くらい簡単に乗り切れる」 「違う! 依頼人なんかじゃない。あんたが一番傷ついているじゃないか!」  千砂が涙ながらに怒鳴る。 「どうしてそうなる」  霊斬の怒気を含んだ声が響く。 「あんたはいつだって、依頼人に代わって〝痛み〟を引き受けてきた!」 「ああ、それはこれからも、ずっと変わらない」 「あんたのそういうところが、哀しいんだよ! どうしてそこまでして、一人で抱え込もうとするのさ?」 「誰かに頼ったところで解決するわけじゃない。俺が感じている〝痛み〟を他者に少しでも背負わせるなど、そんな真似はできない」
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