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四柳はそれを見た後、千砂を呼びに戻った。
「終わったぞ、待たせたな」
「気にしないでおくれ。それで、様子は?」
「いけば分かる。それと今晩は、ここで休ませる」
「分かった」
千砂はうなずくと、奥の部屋へ足を踏み入れた。
「失礼するよ」
「ああ」
霊斬の少し元気のない声を聞いた千砂は、心配にはなったが、顔にはそれを出さなかった。
千砂は黙ったまま、霊斬の枕元に正座をする。
霊斬は首だけを動かし、千砂の方を見る。
「腕、痛むかい?」
霊斬はうなずく。
「懲りないのかい? こんなに怪我して」
「ああ。……ったく」
痛みに顔をしかめた霊斬が、忌々しげに呟いた。
千砂はそんな霊斬を見て溜息を零す。
「傷つくあんたを見ていると、哀しくなる」
「哀しい?」
霊斬は首をかしげる。
「他人のために命を懸けて、こんなことまでしているのに、金を受け取るだけでなんて。依頼人の覚悟ひとつで、あんたは戦に出ていく。なんの躊躇いもなく」
「そうだな」
霊斬はうなずく。
「あんたには、恐怖って感情がないのかい!?」
千砂は言いながら、霊斬に詰め寄る。
「恐怖か……。ほとんど感じていない」
目に涙を溜めている千砂に対し、霊斬はいつもと変わらぬ口調で告げた。
「感じていないって……。もしかして、怖いって、一度も思ったこと、ないのかい?」
千砂は愕然としながら、言葉を紡ぐ。
「……そうかもしれない」
霊斬はしばし考えるように、視線を彷徨わせた後言った。
「一番苦しんで、悩んで、怖がっているのは、依頼人だ。それに比べたら、俺の恐怖くらい簡単に乗り切れる」
「違う! 依頼人なんかじゃない。あんたが一番傷ついているじゃないか!」
千砂が涙ながらに怒鳴る。
「どうしてそうなる」
霊斬の怒気を含んだ声が響く。
「あんたはいつだって、依頼人に代わって〝痛み〟を引き受けてきた!」
「ああ、それはこれからも、ずっと変わらない」
「あんたのそういうところが、哀しいんだよ! どうしてそこまでして、一人で抱え込もうとするのさ?」
「誰かに頼ったところで解決するわけじゃない。俺が感じている〝痛み〟を他者に少しでも背負わせるなど、そんな真似はできない」
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