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霊斬は冷ややかな声で言った。
「あんたの心と身体は、あんたの物だ。依頼人の物じゃない。なのに、どうしてそこまで……!」
「犠牲にする道を辞めない、か?」
彼女の言わんとしていたことを汲み取った霊斬は、言葉を続けた。
千砂は涙を拭いながらうなずく。
「自分のために生きようとしたこともあったが、それはつまらなかった。面白くないんだよ、なにもなく平和な時代は」
「つまらないって……」
千砂は思わず溜息を吐く。
「少しくらいの危険もあったほうが面白い。俺はな、今、充実しているんだ」
「あんたの侵す危険は少しなんてもんじゃない!」
千砂が苛立ちをあらわにする。
「そうだな。だが、これでいいんだ」
「これでいい……?」
霊斬の静かな声に、千砂が首をかしげる。
「俺が決めて、始めたことだからだ」
霊斬は氷のように冷たい声で言った。
――霊斬は覚悟を決めている。最初から。周りがなんと言おうと、そこだけは決して折れない。変わらない。自身が苦しむという事実を捻じ曲げても、霊斬は生きようとしている。その生きる執念には頭が上がらないが、もっと他に、方法はあるはずだ。それを言ったところで、霊斬は聞く耳を持たない。
「……そうかい」
四柳が部屋に入ってきた。
「ずいぶん騒いだようだが、女を泣かせるのは感心しないぞ、霊斬よ」
霊斬は苦笑するしかない。
「そうだな」
「嬢ちゃんはお前が心配なんだよ。なぜそれが分からない?」
「心配など、されたことがない」
霊斬の静かな声に、四柳は溜息を吐く。
「心配なら、おれだってしてるぞ」
「お前もか?」
霊斬は驚いたように目を瞠る。
「いつ死んじまうか分からないんだ。致命傷を負ったことも少なからずあるだろう。それに加えてお前は治りきっていない傷が多すぎる。いつ古傷が開いてもおかしくない。そんな身体だから、心配するんだよ。お前が心配ないと言ったところで、説得力はない」
四柳は、はっきりと告げた。その後、二人を一瞥した後、部屋を去った。
「……そうかもしれないな」
四柳に言われて、霊斬は苦笑するしかない。
「千砂」
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