第五章 団子屋

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 霊斬が声をかけた。 「なんだい?」 「もう泣くな。俺は変われないが、ひとつ、約束してくれ」  千砂は首をかしげる。 「約束?」  霊斬はひとつうなずくと、言葉を続けた。 「俺のように、感情をすべて抑え込むような人間にはなるな。哀しいなら哀しい、痛いなら痛いと、正直な人間であってくれ。……俺はもう、そんな人間にはなれない」  霊斬は遣る瀬無い声で言った。 「分かった」  千砂は再び目に涙を溜めて、うなずいた。 「ならいい」  霊斬は安堵したように笑ってみせると、痛みに顔をしかめた。 「お大事に」  千砂はそう告げると、席を立った。 「……ありがとう」  霊斬はぽつりと告げると、眠りについた。  それから数日後、まだ左腕の晒し木綿が取れない霊斬は、床に寝転んでいた。  すると、戸を叩く音が聞こえてくる。 「開いておりますよ」  霊斬が身を起こし、そう声をかける。  戸が開き、団子屋の親父が顔を見せた。 「どうぞ」  霊斬はそう言って、姿勢を正す。 「娘になにかあった?」  団子屋の親父は、開口一番に言った。 「なぜ?」  霊斬が静かな声で告げる。 「娘が夜中、うなされている。殺さないでくれ! と叫んで目が覚めることもある」 「実は、今から五日前の夜、みたきさんを訪ねた者がいた。その者は彼女を殺めようとしていたから、それを俺が止めた」  淡々と霊斬が告げると、親父は納得したようにうなずいた。 「そうか。……これを」  親父は言いながら、銀五枚を差し出した。 「感謝する」  霊斬は礼を言いながら、それを袖に仕舞った。 「またのお越しをお待ちしております」 「また、団子、食べにおいで」
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